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ドブルーフッチ!降矢ななのおいしいスロバキア

第4回

Kyslá kapusta(キスラー・カプスタ)
酸っぱいキャベツの漬物

「ドブルーフッチ!」とは、スロバキア語の「めしあがれ!」です。直訳すると「良い味を!」という感じ。つくった人や食卓に同席する人が、食べはじめる人に向かってかける言葉です。
このエッセイでは、中央ヨーロッパの一国、スロバキア共和国に暮らす降矢ななが、思い出や経験をからめながらスロバキアのおいしいものをご紹介します。
さぁ、みなさま、ドブルーフッチ!


 キスラー・カプスタは、千切りキャベツの酸っぱい漬物です。ドイツのザワークラウトというとわかりやすいでしょうか。前回のエッセイで紹介したカプスニツァのメイン食材です。まちの市場に行くと、大きな樽に入ったキスラー・カプスタ(以後、酢キャベツ)が量り売りされています。客の多くは、1kg、2kgの量で買い、希望すると漬け汁も追加してもらえます。この汁は、スープのだし汁になるのです。買おうか迷っていると、売り子のおばさんが「おいしいよ」と、味見をすすめてくれたりします。浅漬けと古漬けがあって、スープに使うのは古漬けの方。作り手によって味が違い、おいしい酢キャベツを売るところは、樽の前に行列ができています。

 大学の新学期が始まり留学生活が軌道に乗りだしたころ、版画科の生徒たちが、カプスニツァ・パーティーを開きました。毎年クリスマス前に行われる伝統行事だとか。私と2人の学生が制作中のアトリエ、213号室の真ん中に、電気コンロ3台と、学食から借りてきた大鍋、たくさんのお皿とスプーンが運び込まれてきました。鍋の中には、大量の酢キャベツが……。電気コンロにスイッチを入れ、そこに、ひと口大に切った燻製の豚肉(皮付きのすね肉、クロバーサ)と生肉を投入します。キャベツがかぶるくらい水も入れます。タマネギの皮をむいていた女の子がスロバキアの民謡を歌い始めると、何人かもそれに合わせて口ずさみながら、ジャガイモやニンニクの皮むきをしています。紙コップに入ったワインもふるまわれます。大きなビンに入ったワインが何本も用意されていました。ブラチスラヴァから車で40分ほどのワインの産地で有名な町、ペジノクから通ってきている学生が、量り売りで買ってきたそうです。

 材料がほぼ用意できた頃、アメリカの映画俳優ロイ・シャイダー(*1)のような眼鏡をかけたロマンスグレーの先生がニコニコしながらやってきました。肖像デッサンを教えているルマンスキー先生です。カプスニツァ・パーティーのシェフは、ルマンスキー先生です。ジャガイモのサイコロ切りの大きさや、水の量などを学生に指示しながら、パプリカパウダーや粒コショウ、ローリエの葉っぱを鍋に入れていきます。クミンシードを用意し忘れた学生が「クミンがなければカプスニツァじゃない!」と怒られ、買いに行かされていました。3台のコンロがフル活動。材料が良く煮え、アトリエにちょっと酸っぱい美味しそうなにおいが充満してくると、先生は、仕上げに、ニンニクのかけらをナイフで薄くスライスしながら加えました。もうすぐ完成です。

 できあがったカプスニツァは、オープンに誰にでもふるまわれるので、他の学科の学生や先生たちが次々にやってきました。カーライ先生も奥様(*2)を連れてやってきて、スープ皿を手に学生たちの輪に加わります。カプスニツァをすすっている私は、みんなから「学校は楽しい?」「カプスニツァって日本にもある?」「日本人もクリスマスを祝うの?」などなど質問ぜめにあいました。アトリエの大きな窓の外はもう真っ暗です。パーティーは明け方まで続きました。

(*1)映画「ジョーズ」のブロンディ署長役で有名。2008年死去。

(*2)カミラ・シュタンツロヴァーさん。カーライ先生と同じく画家です。お二人はブラチスラヴァ美術大学在学中に知り合い、結婚されました。

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profile

  • 降矢なな

    降矢なな

    1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学・版画科卒業。作品は、『めっきらもっきらどおんどん』『きょだいなきょだいな』『おっきょちゃんとかっぱ』『ちょろりんのすてきなセーター』『ちょろりんととっけー』『ねぇ、どっちがすき?』「やまんばのむすめ、まゆ」シリーズ(以上福音館書店)、「おれたち、ともだち!」絵本シリーズ(偕成社)、『いそっぷのおはなし』(グランまま社)、『ナミチカのきのこがり』(童心社)、『黄いろのトマト』(ミキハウス)、『やもじろうとはりきち』(佼成出版社)など多数。年2回刊行誌「鬼ヶ島通信」にてマンガを連載中。スロヴァキア在住。

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