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偕成社文庫100本ノック

第91回(プレイバック中!)

りゅうのたまご

2022.01.11

『りゅうのたまご』佐藤さとる 作

「コロボックル物語」シリーズの作者で、日本のファンタジー小説の草分けとして知られる児童文学作家の佐藤さとるさんが、2017年2月に88歳で亡くなられました。 

 佐藤さとるさんの代表作といえば「コロボックル物語」シリーズですね。作品を読んで、きっといつか人間の指ほどの小さな人々に会えるかもしれない!と思った人は少なくないのでは?(むしろ、私は本当に会ったことがあるような気持ちになって、その存在を疑わなかったものです) 

 そんな佐藤さとるさんの作品が収録されている、偕成社文庫『りゅうのたまご』には、表題作の他、「そこなし森の話」「きつね三吉」など、1冊で6話読むことができる本です。

 この本にでてくるおはなしは、否含山(いなふくみやま)という架空の土地が舞台になっている空想話。

 不思議な石がでてきたり、天から犬がふってきたり、豆のような小さなたぬきがでてきたり…。こんな出来事って、現実の世界あるでしょうか?
 けれど、「コロボックル物語」と同様に、もしかしたらその世界に自分もいるのではないか? 昔行ったあの場所なのでは? という錯覚を抱いてしまうのです。

 例えば、「りゅうのたまご」にでてくるこんなシーン。 

 おさむらいのからだは、頭がしびれるような、あやしいにおいがまきあがっていたのです。息をすいこむと、目の前がぼうっとかすんで、だるいような、いい気持ちになりました。(「りゅうのたまご」より) 

 においの表現は、この部分だけではなく、おはなしの中で様々な表現ででてきます。もうそれは、読んでいる最中に読み手の臭覚が物語の中に迷い込んでしまうかのようで、本当に鼻をつまみたくなるのです。 
 そして、今も尚、現実世界の中であやしいにおいを察知する度に、「もしかして、この辺りにりゅうのたまごが?」と思ってしまうのです。
 普通に考えたら空想的な出来事でしかないけれど、佐藤さとるさんの物語は最後の一文を読み終えるとやっぱり、「もしかして?」と思ってしまう。そして何度読んでも(更には大人になっても!)その、気持ちが消えないのですから不思議ですね。 

 佐藤さとるさんの作品は、私の中でこんな風に生き続けています。物語で出会った世界を「ひょっとして?」「もしかして?」と期待しながら生きる毎日って何だかわくわくしますね。

 佐渡さとるさんの作品は子どもから大人まで沢山の読者の中で生き続けていくことでしょう。きっとあなたの側にあるに違いない世界を教えてくれます。出会っていない方は是非手にとってみてくださいね。

 佐藤さとるさん。心よりご冥福をお祈りいたします。

(販売部 高安)

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