突然ですがわたしには、詩集や歌集を読む習慣がありません。
詩はわりと好きなのですが、短歌などはめっぽう苦手で、「これは有名な歌人の作品で、こういった表現が素晴らしい」などと言われると、「そう言われましても……良さなんてわかりません……」と気持ちが縮こまってしまいます。
しかし今回100本ノックを書くにあたり、わたしは『啄木歌集』を手に取りました! 数ある偕成社文庫の中で、三行の歌が並ぶこの本は不思議な存在感を放っています。
名前はもちろん知っていますが、「有名な歌人」という壁のために敬遠していた彼。でも、その波乱に満ちた人生を知ると、途端に親近感が湧きました。
石川啄木は、今のわたしと同世代の26歳で亡くなっていますが、そうとは思えないほど濃密な人生を過ごしました。
学校では初恋相手の節子(のちの妻)に入れあげてろくに勉強をせず、算数のテストでカンニングをするし(しかも先生に目撃されてばれる)、お寺の住職である父親は本山へ払うお金を滞納して追い出され、生計が立てられなくなります。
啄木が岩手の実家を出て、中央文壇での活躍を目指して上京しても、そうすぐに食べていけるわけでもないし、就職した先でいさかいを起こしてやめてしまったりもします(お金に困っているのに……)。
……というような内容の解説を読んで(解説のページがまた面白いんです!)、けっこうドタバタした人だったんだなあ、と思いながら歌の方を読むと、その繊細で儚くて美しい歌に驚き、突然心がしんとします。忙しない人生の中でも、啄木が彼にしかない鋭い感性をもって、物事を見ていたことが感じられます。
といっても中には「夏休みが終わっても戻ってこない若い英語の先生もいたなあ。」という歌や「よく怒る先生に、ひげの様子が似ているからヤギとあだ名をつけて、喋り方を真似している。」という歌など、学校に通っていたときを思い出すような歌もあります。
古い言葉遣いはありますが、難しい単語はなく、どれもとてもわかりやすいのです。
わたしは
「眼を病みて黒き眼鏡をかけし頃
その頃よ
一人泣くを覚えし」
という歌が心に残りました。ちょっと変わったチョイスでしょうか?
人によって心に残る歌は違うのでしょうね。
収録されているのは「一握の砂」「悲しき玩具」の二作品です。歌がずらっと並んでいますが、「歌集を読もう」と意気込まず、ぱらぱらとめくって目にとまった歌から読む方法でも、だんだん作品に入り込んでいけて面白いなと思いました。
「いろんな歌集を読む」、この春のやりたいことリストに加えたいと思います。
(販売部 松野)