真っ青な空に強い日差し、生いしげった緑と、まわりの全てが生命力に満ちて感じられる夏は、わくわくする季節です。けれど同時に、毎年夏がやってくると漂ってくるものが、暗い戦争のにおいでもあります。
『私のアンネ=フランク』は、『ふたりのイーダ』(講談社)にはじまる、「直樹とゆう子の物語」シリーズの第3作。松谷みよ子さんの作品で、公害や戦争といった社会問題をテーマにふたりの兄妹を通して描かれたシリーズです。
「戦争と平和」は、大きく重たく難しいテーマです。
あまりに陰惨で、触れることがつらく敬遠してしまいたい気持ちになることもあります。「向き合っていかなければ」と思いながら、日常に押し流されるうちに遠ざかってしまっていることもあるのではないでしょうか。でもそんなふうに「まあ、いいか」を繰り返し、問題を追いやる意識すら無いままに、頭のすみっこへ放っておいてしまうことに、警鐘を鳴らしてくれる作品が、この『私のアンネ=フランク』なのです。
それでいて、戦争のお話はどうしても苦手、という方にも読みやすく、おすすめできる作品です。現代に生きる母娘(と言っても1978年の設定なのですが)がそれぞれアンネ=フランクへあてて書いた日記を中心にしてお話が展開されていきます。ゆう子は、13歳のお誕生日に母の蕗子から、『アンネの日記』と日記帳をもらいます。アンネのことを知らないゆう子は、『アンネの日記』のページも開かぬまま、何の気なしに「アンネ=フランクさま」に宛てた日記を書き始めます。一方、ルポライターとして働く母の蕗子は、アンネと自分が同じ年であったこと、娘のゆう子がアンネが日記を書き始めた年齢と同じ13歳であることに気づき、アンネにあてた日記を書き始めます。そして、青森県で「鬼の目玉」という昔話を聞き、不思議な運命に導かれるようにしてアウシュビッツへ。
また、ゆう子もたのしく心はずむ毎日を送りながらも、身近な人たちの間で起こった出来事から、自分の心の中にもひそんでいる理由なく誰かを疎ましく憎く感じてしまう気持ちに気づき、子どもながらに人間の自由と尊厳を考えます。先ほども書いたとおり、この物語は、1978年夏~秋のお話として描かれ、1979年に出版されました。しかし、内容は古さを感じさせないどころか、今まさに、私たちが戦争という問題にどう向き合っていけば良いのかを、普通の母娘(ときどき兄)とともに立ち止まり考えるきっかけを与えてくれる作品です。
この本が出版されて10年後に生まれた私は、子どもの頃から「とにかく戦争をしてはいけない」と教えられてきました。そのことが、理屈で説明する必要がないほど内在化した考え方となっているのには、たくさんの人に言い聞かせてもらったことに加えて、戦争のお話を読んだり聞いたりする中で、その恐ろしさや悲しさを自分の感覚で感じたことが大きいのではないか、と感じています。
(販売部 岩澤)