FROGMANによる映画化で再び脚光を浴びている不朽の名作『フランダースの犬』。貧しくも美しい心を持つ天才画家ネロと愛犬パトラッシュの物語である。宮崎駿さんも参加していた事で知られるアニメ版は繰り返し放映され、衝撃的ラストシーンに多くが涙を流したと思う。だが意外と原作を読んだ方は少ないのではないだろうか?
偕成社版「フランダースの犬」は、ウィーダの原作を雨沢泰氏が忠実に和訳した「完訳版」だ。それ故に描かれる19世紀ベルギーの描写は恐ろしいほどリアルであり、残酷ですらある。パトラッシュがネロと出会い、ジェハン爺さんのもとで暮らし始めるまでの経緯。理不尽な大人たちの妨害。天才的な画家としての才能に対する嫉妬と無理解、そして冤罪。その描写は壮絶で、教科書向けにハッピーエンドに作り替えられる事の多い童話の中で今なお凄まじいインパクトを放っている。
そんな原作小説の真骨頂は、アニメ版で10歳とされていた主人公ネロが、実は15歳の、野心的で容姿端麗な若者だという事だろう。ネロへの迫害を決定的にしたのは単に貧しかったからではなく地元大富豪の娘アロワと恋に堕ちた事だった。本作は悲劇であると同時に珠玉のラブロマンスでもあるのだ。
フランダースの犬は悲しい物語だ。だがお涙頂戴の浪花節とはちょっと違う気がする。怠惰、強欲、嫉妬といった自らの罪に気付かない周囲の大人たちは、ネロが死んで、露骨に自分たちの間違いを悔いる。作者はキリストの話を、子供たちにも分かる身近な話として描きたかったのかも知れない。
(販売部 西川)