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北の森の診療所だより

第22回

4月 いたる処で春が!

氷とけ、オタマジャクシの便りちらほら。キトウシの山に春が来た。古い名の生える山の名のとおり、そこから今年もキトピロ(ギョウジャニンニク)を採って友が来た。「もうすぐだ」と言って帰っていった。カタクリの花見のことである。この地方には、カタクリの花の名所と名のつくところは何カ所もあるが、私は地元びいきではなく、この山は一等だと思っている。一緒に咲くエゾエンゴサクのうす紫、ニリンソウの白、そして桃色のカタクリが遅い北国の春を、身をふるわせて告げている。

昔、シマリスをみていたら、この季節エゾエンゴサクの花が大好きだと知った。そこでその帰り道、少し採って食べてみた。おいしかった。あっさりした味、というより味がないのに春だけは口や鼻をくすぐるように感じられたので、以来、春を食べると称してこの時期食卓にのる。ニリンソウも春を告げると知人がいうので、ある年から皿の上に参加した。

春の野草はなんでも食べるという悪友が、カタクリの鱗茎を持ってきた。春になったら「おひたし」にして食べろ! と命令して帰っていった。6年前のことである。以来、庭……といっても我が家は林の中にあるので、そこは山地といっていい……でどんどん増えて、友のいうとおりに今年あたりは食べてもいいかなと、罰当たりなことを考えている。

ベランダから見える我が家の山地のキトピロの茂みの間で、先ほどからときどき私を観察するものがいる。繁殖地であるもう少し高地へ、帰る途中のクロテンである。冬毛が半分夏毛に変わろうとしている。

そういえば4日前、レンジャクとツグミの一群が北へ向かい、今朝はホホジロの雄と雌が一羽ずつ、地面をつついている。先ほどやってきた雌のキタリスの乳房の先端が赤くなっている。赤ちゃんを育てていますと告げていた。

春がいたる処で主張し始めている。

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profile

  • 竹田津 実

    竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

真っ黒な表紙にこれ以上ない直截な言葉「なぜ戦争はよくないか」の表題にひかれ、手にとりました。ページを繰ると、あたたかな色彩で日常のなんでもない幸せな生活が描かれていて胸もホッコリ。それが理不尽な「戦争」によって、次々と破壊されていく様が、現在のガザやイスラエルと重なります。(70代)

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