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北の森の診療所だより

第21回

3月 ぽっかりあいた雪穴にも春の気配

水がぬるみ、気の早い人は融雪剤をまく。3月は雪の穴をのぞく月。北国といえども3月は暖かい。11月の外気が寒暖計の指す数字より寒く感ずるのと反対に、風が弱ければ一日じゅうでも外にいたくなるような暖かさに思える。うれしい。

今冬は雪が多く、全てを能面のように覆い隠して単純にみえたうら山の雪面が、暖気のせいで大地の地面を正直に表現し始めた。あちこちにポカリポカリと穴があき、周辺に残した足跡が来客のあることを告げた。


月始め、若いクマタカがのんびり休んでいた足元に、実は倒木があり、あちこちに出入り口を持つキタリスの遊び場だったことを知る。定番の止まり木ではなく、足元でモゾモゾするリスの足音に耳をそばだてる狩りの姿があったかと。それにしても、のんびり見えたのも春のせいだったのだろう。当方も心がなごむ。


今冬はアライグマがやってきて、2年続けて庭で冬を迎えたクロテンの個体が一週間に一度くらいしか顔をみせない。北の地でもこの外来種の席巻はみごとという以外に表現のしようのない狼藉ぶりで、世界じゅうで起きた種の撹乱の現場を今年は毎夜みせつけられている。


そんな日、斜面にあいた雪穴の前に、ゆっくり観察しようとブラインドを立てて風のない日のひとときを楽しむことにした。思った以上の来客。ならばと私も穴をのぞく。そこはもう春の気配がする。風に吹き寄せられて、つもる落ち葉はじっとりとして暖かい。フキノトウが「もういつ出てもいいですよ」とまるい土色の外套を露出してみせた。ヤマゲラ、アカゲラがのぞき、シジュウカラが何かを探している。


エゾカケネズミの姿をチラと見たような気がしたらすぐあとクロテンの顔。カケスが秋にかくしたドングリを、落ち葉の下から見つけ出した。

もうすぐ忙しい月がくる。

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profile

  • 竹田津 実

    竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

銭天堂の、もっと細かいことや、そのウラを知れて、とても面白いと思いました。それぞれのまねきねこの、「はいく」が上手でとても良かったです。「番外へん」の本も、もっと読みたいなと思いました。(10歳)

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