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北の森の診療所だより

第15回

9月 今年もサケが帰ってくる

 道東に住む男たちは落ち着かない。いや最近は女性軍も参加すると聞く。サケが帰ってくるのだ。待ってましたと落ち着かない人たちは、釣具の手入れをし、餌の調達に余念がない。なかには網を準備する不埒ふらちな者も登場する。

 そんなある日、友からの電話。「今年もそろそろですよ」と言うので出かけた。私は釣りはやらない。代わりに撮ろうという魂胆。毎年のことながら海は豊かである。群れるサケたちを見て「おかえり、ごくろうさん」と声をかけるのを自分の役目だと決めている。

 海岸線を眼下に望む崖から見ていると、波打ち際に沿って移動する群れがメダカに見えておもしろい。なぜか釣り人はそれよりはるか沖合めがけて餌のついた釣り針をなげている。あれで釣れるかねえ、とつぶやきぼんやりながめる時間が、私は一番好きである。至福の時とはこんな時間をさすのだろうと、これもぼんやり思う。

 遡上そじょうするサケの気持ちになりましょうという友の言葉に誘われて、7km先の上流まで2日かけて歩くことにする。途中老人だからと車で移動することはあっても、努めて要所要所は車を降りて歩くことにした。サケと同じように、クタクタヘロヘロとなって源流にたどりつく。


 美しかったサケの体は産卵の場所取り争いで、傷ついてみるかげもない。私もあんな姿になっているのではないかと、水面をのぞくのが恐ろしくなった。毎年のドラマを今年も見せてもらった。雌は産卵、そして雄の参加でサケの一生が終わる。


 死があちこちにあり、場所によっては川原が白く見える所もある。死の配当をもらう者が集まる。カラス、カモメ達、シマフクロウ、そして分解を担当する昆虫たち、それをごちそうになろうとカワガラスやセキレイの仲間が集まる。パーティである。産卵した卵そのものをねらう罰当たりなものもいるが、自然は全て織り込みずみで川はゆっくり流れている。

 9月のイベントが終わると冬が山々の頂に顔をのぞかせる。人々は冬支度に忙しくなる。

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profile

  • 竹田津 実

    竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

真っ黒な表紙にこれ以上ない直截な言葉「なぜ戦争はよくないか」の表題にひかれ、手にとりました。ページを繰ると、あたたかな色彩で日常のなんでもない幸せな生活が描かれていて胸もホッコリ。それが理不尽な「戦争」によって、次々と破壊されていく様が、現在のガザやイスラエルと重なります。(70代)

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