0歳、1歳は、「赤ちゃん絵本」といわれるジャンルから選べるので、お父さんやお母さんは、比較的迷わない。でも、子どもがまったく興味をしめしてくれなかったり、かじったり、破ったりしてしまって「『赤ちゃん絵本』なのに、うちの子は見ない」とがっかりする。
2歳近くになると、今度は「あいさつ」とか「お返事」、「トイレトレーニング」などなど、しつけに関する絵本も書店にならんでいて、そろそろこんな絵本も必要なのかと、手にとってみたり。
3歳になると、子どもが選んだ本が、赤ちゃん向けの本のような気がして、「文字が多い本を選んだほうがいいのかな?」と悩んだり。
4歳になれば、子どもが自分で文字を読んで楽しめるような本じゃないと、ダメなんじゃないかと思ったり……。
たしかに、生活につかうお金のなかから絵本を買うお金をだして選ぶとなると、わからなくなってしまう。世の中には、それほどたくさんの絵本が出版されている。
「年齢にあう本を選びたい」と思うのは、子どもの今に目をむけているということ
「年齢にあった絵本をさがしたい」。それは、きっとお父さんやお母さんが、自分の子の「今」にちゃんと目をむけているという証拠だと思う。あっというまに成長していくわが子に、「今」できることをしてあげたい。そんな親の願いが、年齢にあった本を選びたいという気持ちにつながっている気がする。
こういう質問がでたとき、わたしは、「この子は、どんなものに興味がありますか?」と、日ごろのようすをきいてみる。わが子の「今」を見ているお母さんたち(直接お母さんとかかわることが多いので、お母さんにきくケースが自然と多くなる!)からは、こんな答えがでてくる。
―なんでも「いやっ」って言う
―電車ばっかりに興味があって
―言葉をなかなか話さなくて
―友だちとうまく遊べない
などなど。
絵本の選びかたを迷うように、その子の「今」との関わりに悩んだり、迷ったりしている親のすがたと出会うことになる(子育てって正解がないので、悩んだり迷ったりしてことがあったら、声に出してみるのがいいと思います)。
絵本はきっと、困っていることや悩みにこたえてくれる
子育てに悩んだり迷ったりするときこそ、親子で本を好きになってくれたら、日頃の「困った」が軽減されて、大きな安心感を得られるんじゃないかな……。絵本は、困ったときに手助けしてくれる「ツール」にもなり得ると、わたしは思う。
こんな助言をしているわたしだけれど、じつは、お母さんやお父さんたちが自分の子どもの「今」を見る目って、「やっぱりすごいなあ」と感心させられることが多い。子どものことを一番わかっているのは、やっぱりそばにいる大人ですね。
自分の子どもが好きなことや興味のあることを考えながら、
「これ、きっと好きだな」
「これ、見せたらよろこぶだろうなあ」
「これ、おもしろいから、見せてみたい!」
そんなふうに絵本をさがせたら、たいていは、まちがいない。
「将来のために」と絵本を選ぶより、今、楽しめることを!
ひとつ言えるとしたら、「字を覚えさせたい」、「将来のために本好きの子にしたい」と、「~のために」という目的で絵本を選ぶのはもったいないということ。
動物が服を着て歩いていたり、ライオンとうさぎが仲よく遊んでいたり、人間と昆虫が話ができたり、オノマトペの言葉がならんでいるだけだったり。そもそも、あるはずがない世界が絵本の中には広がっている。それを楽しめる時期ってそんなに長くはない。
オバケがでてくる絵本を本気でこわがったり、絵本の中にある食べものをおいしそうに食べてみたり。本気で絵本の中の世界を楽しむことができるなんて、うらやましい! そう考えると、子どもたちが「今」楽しめる本が年齢にあった本なのかな。
年長児になっても、「赤ちゃん絵本」を好きだった子もいるし、たくさん文字がある絵本なのに、飽きずに絵だけを見ていた2歳の子もいたなあ。
「おもしろい!」「やってみたい!」「かっこいい!」「ふしぎだなあ」と、子どもたちの心がたくさん動く絵本に出会えるように、お父さんやお母さんも楽しみながら絵本をさがしてみてください。
検索してみると、全国に子どもの本の専門店があります。住んでいる場所に近い専門店や、児童書コーナーがある本屋さんへ足をはこび、手に取って、ページをめくってさがすことも大事かもしれません。子どもたちが、大事に抱えたくなるような絵本に、1さつでも出会えたらすてきですね!
興味のちがいで、いろいろな楽しみかたができる『100かいだてのいえ』
子どもたちが飽きずにページをめくって見ていた絵本に、『100かいだてのいえ』(いわいとしお 作)があります。
めずらしいたてびらきの絵本を見て、「たかい!」と声をあげた、かなくん。
1から順に100までの数字を数えて大満足だった、こうちゃん。
10階ごとにでてくる動物がちがったり、部屋のなかの色づかいが変わったりすることに気づいて、大発見のように教えてくれた、たくちゃん。
てんとうむしが大好きないっちゃんは、てんとうむしがでてくるところで「わあー」って声をあげていた(この絵本には、1階、1階、それぞれちがう生活をしているかえるや、てんとうむし、へび、みつばちなどがでてくる)。
それぞれ、はまるところはちがうけれど、主人公のトチくんが、100階だてのてっぺんに住んでいるだれかに会いにいくという、わくわくドキドキするストーリーは、みんなで楽しんだ。『100かいだてのいえ』は、ひとりひとりの子の興味のちがいで、いろいろな楽しみかたができる本で、おすすめです。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より、公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年近く。1997年から、4年間、椎名桃子のペンネームで、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、園での子どもたちとの日々を、エッセイにつづる。書籍に、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスでの連載をまとめた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)がある。現在、保育雑誌「ピコロ」(学研)で「きょうはどの本よもうかな」、パルシステムのウェブサイトで「保育士さんの絵本ノート」を連載中。児童センター館長として、日々子どもたちと一緒に遊びながら、お母さんやお父さんの子育て相談も受けている。