出久根育さんは、チェコ・プラハ在住の絵本作家。スロバキアの絵本作家ドゥシャン・カーライに師事した経験をもち、日本人離れした独創的なイラストが魅力です。今回は初期作品にあたる、ブラチスラバ世界絵本原画展でグランプリを受賞した『あめふらし』(2003年)、日本絵本賞大賞を受賞した『マーシャと白い鳥』(2005年)を紹介します。
おそろしいグリム童話に魅惑的なイラストをつけた『あめふらし』
『あめふらし』(グリム兄弟 著/若松宜子 訳)は、グリム童話に出久根さんがイラストをつけ、ブラチスラバ世界絵本原画展でグランプリを受賞した作品です。
舞台となるのは、美しく聡明でありながら、残酷な王女のいる国。王女は婿選びの時期をむかえたものの、気位が高く、いつまでもすべてを自分のおもうままにしたかったため、結婚の条件に難題を出します。とある若者が、この王女とのゲームにのぞむのですが……。
どの場面の絵をとりだしてみても、それ1つで絵画作品のようで、どこまでも不思議で強烈な世界に惹きつけられます。どうしたらこんな構図が浮かぶのだろう? と、出久根さんの底知れぬ想像力にぞくりとする1冊です。
※本作はパロル舎から刊行したものを、翻訳をあらため、2013年に再刊行したものです。
赤が印象的なロシア民話の絵本『マーシャと白い鳥』
『マーシャと白い鳥』(M・ブラートフ 再話)は、出久根さんが文章も手がけたロシア民話の絵本。両親が留守の間、弟のワーニャの面倒をみるようにいわれた少女、マーシャ。ところが、マーシャはその約束を守らず、あそびにいってしまい……帰ってくると弟の姿はどこにもありませんでした。ワーニャは白い鳥にさらわれてしまったのです!
マーシャは勇気を出して、鳥たちがきえていった黒い森へ向かうことに。弟をさがす道中で出会うのは、土でできたペチカ、赤い実をいっぱいつけたりんごの木、そしてミルクの小川にチーズの岸。それぞれに助けられながら、ついにおそろしいババヤガーがすむ小屋の前で、弟をみつけるのですが……。
マーシャの頭巾の赤が印象的に描かれた絵本。「ミルクの小川」「チーズの岸」という聞き慣れない世界へも、出久根さんの幻想的な絵があざやかに読者を導いてくれます。
出久根さんは、ほかにもチェコを中心にした昔話の絵本や、創作絵本、挿絵を担当した絵本など、多数の作品を手がけています。気になった方はぜひ、チェックしてみてくださいね。