古くから魔物が住んでいるといわれるイタリアの町“ベネベント”。「ベネベントの魔物たち」(ジョン・ベーメルマンス・マルシアーノ 作/ソフィー・ブラッコール 絵/横山和江 訳)は、この実在の町を舞台に、1820年代の人びとのくらしをイメージして書かれた、昔話風の童話です。
魔物の正体は? 物語を読んで謎をときあかそう!
この町では、魔物がいたるところにひそんでいます。井戸の中、橋の下、劇場のあと……。
なかでも町の人が悩まされているのが、魔物のジャナーラのいたずらです。実はジャナーラは、ふだんはふつうの人間として町でくらしているといわれています。そう、もしかしたらおとなりさんや家族のだれかが、ジャナーラかもしれないんです!
主人公の子どもたちは、悪いことがあるとすぐに「これは魔物のしわざ!」とさわぎたてたり、誰がジャナーラなのかと考えたりしていますが、じっさいに魔物を見たことはないし、町のだれが魔物かも知りません。
でも、物語のあちこちにヒントがちりばめられていて、読者は注意ぶかく読むと、その正体がわかるようになっています。
同じできごとを、5人の視点からみる
謎ときをするにあたり重要なのが
さし絵にも、謎ときのヒントがいっぱい!
個性的な主人公たちはこちらの5人です。
ローザ
1巻目『いたずらの季節』の主人公。エミリオと双子のきょうだい。思ったことははっきりと口にだす性格で、いとこのプリモ、けんか友だち。ジャナーラに目をつけられて、さまざまないたずらをしかけられる。
エミリオ
1巻目『いたずらの季節』の主人公。ローザと双子のきょうだい。冷静でかしこい男の子。おてんばなローザの面倒をなにかとみている。
プリモ
2巻目『緑の手の指輪』の主人公。勝気で、リーダーシップをとるのが好き。下の階に住んでいるマリアはいとこ。井戸で魔物のひとり「マナロンガ」の手を目撃する。
マリア・ベッピーナ
3巻目『魔女の足音にご用心』の主人公。地図をつくっている父親とふたりぐらし。おっとりした優し性格で、どこかほうっておけないセルジオにひそかに思いを寄せている。足があまり速くないため、みんなに遅れていたとき、あると出会うことに。
セルジオ
4巻目『わがままな幽霊』の主人公。家に住みつく先祖のゴーストや、お父さんのちがう3人の小さな弟の面倒をみるなど、家の手伝いをたくさん任されている。いやとなかなかいえない、男の子。
あなたの友だちに似た人は、いますか? それぞれの視点で、4巻すべてを読むと物語の全体像が浮き出てきます! ちょっと頭をつかって謎ときを楽しみながら、読み進めてみてくださいね。
実在の町ベネベントの歴史と魔物たち
アッピア街道沿いの重要な都市で、中世には南イタリアを統治するベネベント公国の首都でした。
この物語に登場するいくつかの魔物をご紹介しましょう。といっても、誰も魔物の姿をはっきり見たものはいません。子どもたちをいちばんこわがらせているのは、あちこちで見たもの聞いたもので成る “うわさ”。うわさが魔物たちをますます謎めいて、おそろしいものにしています。
クロッパー
年老いた魔女。劇場広場をよこぎろうとする子どもをおいかけて、つかまえる。「クロップ、クロップ」という足音がきこえてきたら、一目散に逃げましょう!
ジャナーラ
いたずら好きの魔物。ベネベントの住人のうち、何人かの人(男でも女でも)はジャナーラです。魔法の油を脇の下にこすりつけ、じゅもんをとなえるとジャナーラに変身するといわれています。
マナロンガ
もっともおそろしい魔女。橋の下や井戸のなかにひそんでいて、人間の子どもたちを地下の世界へつれさっていくといわれています。
作者と画家の息がぴったりあった物語
「ベネベントの魔物たち」はアメリカの作家ジョン・ベーメルマンス・マルシアーノと、ソフィー・ブラッコールがタッグをくんで作りあげた本です。(ジョンの祖父は、あの『げんきなマドレーヌ』シリーズの著者、ルドウィッヒ・ベーメルマンスさん! ジョンは、マドレーヌの仕事を祖父からひきついでいます。)
この物語は10年以上前ジョンがベネベントの町を訪れたときにアイデアが浮かんだもの。同じスタジオ仲間のソフィーと肩を並べてこの本を制作し「どれが誰のアイデアか、もはやわからないくらい」お互いにさまざまな意見を言い合って物語をつくりあげたのだそうです。