桜、入園入学、友だち、新緑……春をむかえるよろこびを描いた絵本は数多くあります。いつもユニークな絵本で楽しませてくれる、五味太郎さんが春を描いたら? 一頭の仔牛の場面から始まる1冊。ページをめくると意外な展開におどろきながらも、いつのまにかこの世界のとりこになってしまいます。絵本だからこそ表現できる世界観をおたのしみください。
仔牛の黒い模様から草が芽吹く?
表紙をひらくとあらわれたのは、かわいらしい真っ白な仔牛。
「春がきます」
そばでは黄色い蝶々もとんでいて、明るい春のおとずれを感じさせます。
ページをめくると…
「雪がとけます」
添えられたこの一言で、仔牛の背中にできた黒い模様が、まるで雪解けであらわれた土のようにもみえてきました。そうして、ページをめくっていくと……
「草が芽をふきます」
なんと、その土のようにみえていた模様のところに、草が生えてきました…!
こうして仔牛の黒い模様は、いつのまにか土となり、そこに花が咲き……やがて、梅雨の季節は風が吹き、嵐をむかえ、秋はしずかにすすきがゆれ、冬は雪がしんしんとふりつもります。
そしてその寒い冬のあと、ふたたび春がやってくるのです。
1年の季節のめぐりをとおして春を感じる絵本
絵本をとおして、見開きの絵に添えられているのは、とてもみじかい一言です。
けれどもこの一言で、読者を想像力の世界へいざない、風や雨の音、土の香り、つめたい風や雪のふる日のしずけさをを感じることができます。
春にはじまり、春でおわる、明るい季節のおとずれを祝う1冊です。さて、つぎの春をむかえた仔牛は、どんなふうに成長したのでしょうか? 答えはぜひ絵本を手にとってみてください。
五味太郎さんの自由な発想力をあじわいながら、読みたい絵本です。