小学校3、4年制の頃でしょうか。友達のうちに「ラング世界童話全集」(東京創元社版)が箱入りで何冊もあって、その本を読みたくて、友達の家に毎週遊びに行った記憶があります。なにがそんなに10歳の私を魅了したかというと、タイトルです。「ばらいろ」「そらいろ」「くじゃくいろ」……薔薇色、空色、孔雀色……いったいどんな色なんだろ??? 不思議な色別のネーミングに夢中になりました。
そのなかで私がとくべつ好きで何度も読んだのは『みどりいろの童話集』でした。この巻の「ながい鼻の小人」はぜひ読んでみてください。これまで読んでいた昔話とはひと味違う不可解な展開で、何度も読み返したくなる童話でした。
物語は前半と後半にわかれます。
前半は美しい少年ジェムが、鼻の長い醜い小人にされるまで。魔女の家に誘われたジェムは、魔法のスープを飲まされたあと、夢だと思っていた7年の間に料理見習いからコック長になります。7年間も誘拐されたままだったのです!この夢か現かのところが本当に怖くて怖くてなんども読み返しました。やっと魔女のところから逃げだしたときには、鼻の長い醜悪な小人に変身させられていました。父親も母親もジェムの姿かたちを見て我が子と認めてくれません。誘拐されて7年経ってようやく親元に戻ってきたのに、両親から「赤の他人」と拒絶されるのです。こんな理不尽な話があるでしょうか? ここまでが前半です。
後半は、意気消沈したジェムが、それでも魔女のところで覚えた料理の腕を活かして、大公の料理番となります。ジェムは修行を積んだ甲斐あって、凄腕のコックとなり、あっという間にナンバー2の地位になりますが、そこで、大公から無理難題の料理の注文を出されます。ここでまた、ジェムは理不尽な不幸に見舞われるのです。もちろん、ラストは大公に一泡吹かせるのですが、おしゃれなラストですので、ネタバレはしないでおきますね。このお話は、昔話ではありません。ウイルヘルム・ハウフという19世紀ドイツの作家が書いた童話です。この作家は「カリフのこうのとり」(『くじゃくいろの童話集』に収録)という童話も書いています。
偕成社版ラング世界童話全集には、19世紀イギリスの作家アンドリュー・ラングが世界中から集めた昔話や童話のうち165話がはいっています。
最後になりましたが、偕成社文庫収録の『みどりいろの童話集』は以前東京創元社から刊行されていた本をもとに著作権継承者と相談して全体を見直したものです。装画は新しくそれぞれの色にふさわしい画家さんにお願いしました。
(編集部 別府)