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偕成社文庫100本ノック

第23回(プレイバック中!)

少年のブルース

『少年のブルース』那須正幹 作

「〈旧人類博物館〉見学記」「移植時代」「なぜ勉強しなければならないか」「地球の滅亡」……目次を見ているだけでわくわくしてくるこの『少年のブルース』は、那須正幹さんの数少ないショート・ショート作品集です。

 ファンタジー風の話、SF風の話、怪談風の話、歴史風の話など、那須さんのショート・ショートはどれもすごくおもしろいのですが、そんな中にひっそりと佇んでいて、すこし変わった存在感を感じさせるのが、『ビスケット』という一編です。

 ––––戦後間もないの広島のまち。焼けあとに敷かれた道路の上を、ときおりアメリカ軍の兵士たちがトラックに乗って走り去る。子どもたちがそれを追いかけると、兵士たちからチョコレートやチューイングガムがほうられる。「サンキュー、ベリ、ベリ、マッチ」子どもたちは夢中で飛びつくが、その日タカユキは運わるく、他の子に負けてひとつも拾うことができなかった。
 うつむくタカユキは、下水溝に忘れられたように落ちているビスケットを見つける。拾い上げると、裏には黒いどろがべっとりとついていた。つばでいっぱいの口をぬぐったとき、目の前にあらわれた姉は、タカユキの手の中のビスケットをはたきおとし、押し殺した声でいった。「こじきみたいなまねは、やめんさい!」––––

 那須さんは広島に生まれ、3歳のころに母親の背中で被曝しています。わけもわからないまま戦争の渦に巻き込まれ、きびしい生活をしいられるなか、強く生きようとしたお姉さんの姿が、そこには描かれています。
気になったのは、この物語がフィクションとして描かれているところです。主人公は「タカユキ」であって、著者本人ではない。戦争の体験について語ることは、きっと想像するよりもはるかに大変なはずです。フィクションだからこそ描けたことも、あったのかもしれないな、と思いました。物語の最後はこうです。

 たっぷり水をすって、ぶよぶよにふくらんだビスケットは、タカユキの顔の左半分をおおったケロイドに、よく似ていた。

 なんといっても74編もあります。ズラリと並ぶ目次を見渡して、気になるものから好きなように読んでみてください。ただし、読み始めるとほんとうにとまらなくなるので、寝床に持ちこむことはあまりおすすめしません。

(編集部 丸本)

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今日の1さつ

推理小説で、怪奇小説で、歴史小説。なんて贅沢な一冊!そしてどの分野においても大満足のため息レベル。一気に読んでしまって、今から次回作を楽しみにしてしまってます。捨松、ヘンリー・フォールズなど実在の人物たちに興味が湧いて好奇心が刺激されています。何よりイカルをはじめとするキャラにまた会いたい!!(読者の方より)

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