苦手な虫を子どもが捕まえてくる。どうしたらいい? という悩み。まず、虫好きの子とどう接したらいいか考えていることが、子どもの思いを尊重したいと思っていることだと思います。たしかに、虫が苦手な人にとっては、どうしたらいいのかわからないですよね。
でも、よく思い出してみてください。ありの行列をながめていたことはありませんか? かたつむりの角をさわってみたいと思ったことは? 虫の鳴き声に耳をすましたことは?
子どものころに出会ってほしいもの
子どものころに「なんだろう?」「不思議だな」と思うことと出会うのはとても大事だと思います。
保育園で出会った0歳の子どもたちも、小さな花壇で虫を発見するとおおさわぎ。シロツメクサがたくさんはえているところにちょこんと座っていていた1歳の子が、ミツバチの羽音に耳をすましていることに気付いたときは、その感性に驚いたことがあります。
好奇心旺盛な子どもたちに、生きているものの存在をたしかめる経験をさせてあげたいと、ほとんどの保育園や幼稚園では、さまざまな生きものを飼っています。わたしは、昆虫が好きなので、子どもたちがみつけてきたものは、なんでも観察ケースに入れて育てていました。
園庭に草が生えていなくて、バッタがとんでくるような環境がない園も多い。でも、そんななかでも、花壇のブロックやプランターをもちあげてダンゴムシをつかまえる子がいたり、毎日虫とりあみを持って、木の下からセミをながめている子がいたり。ほかにも、カブトムシに憧れてさわってみたかったけど、あしが痛くて思わず振りはらって大泣きした子、観察ケースの中で、サナギがアゲハチョウになっているのに気がつき、くぎづけになっていた子・・・・・・いろんな子の姿を見てきました。
さわれなくてもいい。本を通して知った虫を実際にみつけたとき、その子の豊かな経験になる
さまざまな生きものと共生し、子どもたちが自然に触れられる環境が大事、とビオトープをつくったり、雑草が生える場所をつくったりする園も増えてきています。
実際にさわれなくてもいいのです。本を通してつくられたイメージが、虫をみつけたときに鮮明になり、そのことがその子の豊かな経験になると思います。
絵本『はらぺこあおむし』をくりかえし見ていた子は、観察ケースの中であおむしがさなぎになった姿を見て、「何日も寝るんだよね」「ちょうちょになるの楽しみ!」と、なにも伝えなくても、ちゃんとわかっていました。
図鑑をひらいて「きれい」「どこにいるんだろ?」と、さまざまな生きものを見て自分が感じたことを話す時間も楽しいと思います。
おすすめの昆虫図鑑
昆虫図鑑でおすすめなのは、『今森光彦 昆虫記』(今森光彦 写真・文、福音館書店)。
この本には、昆虫の写真に名前や分類の説明がついているだけではなく、生きて動いている昆虫の写真がたくさん載っています。
あおむしがさなぎになるところや、昆虫がいる場所、虫たちの顔、クモが巣をはる様子など、その神秘に心をうばわれると思います。保育園のクラスに置いておくと、1年たつ頃にはボロボロになって買いなおさなければならないほど、くりかえし見られている本でした。
子育ては基本、無理せず自然体でいい
もし、昆虫が死んでしまっても、動かなくなった虫たちを見て、子ども自身が感じる気持ちを大事にしてほしいと思います。子どもたちがたくさん虫を捕まえてきたとしても、生態系に影響があるなんてことはありません。
「かわいそうだから、逃がしてあげよう」「死んじゃったから、お墓をつくろう」と言いながら、ゴキブリがでてきたら殺してゴミ箱に捨てるおとなたち。そんなおとなの矛盾した姿も、子どもたちはちゃんと見て学んでいくので、無理して昆虫好きになる必要はないと思います。
子育ては基本、無理せず自然体でいい、と思います。
とはいえ、子どもたちが実際に虫を捕まえてきたら、ちょっとがんばって飼ってみてはどうでしょうか?
生きものの飼いかたをていねいに説明した本はたくさん出版されています。観察ケースを買いに行ったり、土を入れたり、食べるものを探したり。昆虫をながめながら、子どもと一緒に過ごす時間はおすすめです。
昆虫がでてくる絵本いろいろ
「やっぱり虫は苦手」「近くに虫がとんでくるような場所がない」「もっと昆虫を身近に感じたい」。そんなときには、絵本です! 昆虫はたくさんの絵本に登場します。
『てん てん てん』(わかやましずこ 作、福音館書店)
てんとうむし、かたつむり、ちょうちょ、ほたる、かまきりが登場するあかちゃん絵本。オノマトペの言葉がでてくるシンプルな構成なので、「どこにいるのかな?」「なにを食べるのかな?」と自然と子どもたちに話しかけてしまいます。
『むしむしでんしゃ』(内田麟太郎 文、西村繁男 絵、童心社)
「ののたん ののたん」と、のんびりいもむしでんしゃが走っていきます。虫たちといっしょに、その虫が住んでいる場所も描かれている。なきむしやよわむしが登場すると、子どもたちが静かになるので笑ってしまう。最後にいもむしでんしゃは、チョウになって空へ!
『サラダとまほうのおみせ』(カズコ・G・ストーン 作、福音館書店)
いもむしのモナックさんがサラダのお店を開くお話。保育園の発表会で題材に選んだことがあって、「子どもがくもの役だと喜んでいるのですが、あのくもですか?」と驚かれたことがあった。昆虫の世界をのぞいている気分になれる楽しい絵本です。
『だんまりこおろぎ』(エリック・カール 作、工藤直子 訳、偕成社)
こおろぎがどうやって大きくなるのかということや、鳴くのはオスだけということなどもわかる絵本です。そしてなんといっても、絵本からすてきな鳴き声が聞こえてきます! この絵本を読むと、おとなも虫の声に耳をすましてしまいます。
『むしプロ』(山本孝 作・絵、教育画劇)
むしたちのプロレスのお話。子どもたちがかっこいいと思うクワガタとカブトムシがプロレスで戦うなんて! ゲームやアニメのなかで戦うものってたくさんあるけれど、こんな風に絵本の中で昆虫が戦う姿は、虫好きの子どもたちにたまらない魅力があるようです。
『むしたちのえんそく』(得田之久 文、久住卓也 絵、童心社)
昆虫が擬人化された絵本。擬人化といっても、あしの数やもようまできちんと描かれている。そして、1冊にいったい何種類の虫がでてくるのかと思うくらい、さまざまな昆虫が登場する! ハンミョウ、エダジャクシ、コオイムシなど、あまり目にしない虫もでてくるので、「どの虫かな?」と探すだけでも楽しい絵本。
『みつばち みつひめ てんやわんやおてつだいの巻』(秋山あゆ子 作、ブロンズ新社)
この本に登場する虫たちも、羽の形やあしなどかなり正確に描かれている。トックリバチのウエストがキューッと細い感じは、本物を見たときに「絵本で見たから知ってる!」と思い出すにちがいない。なんといってもみつひめのおてんばぶりは、好奇心旺盛な子どもたちには魅力的。
『かまきりのカマーくんといなごのオヤツちゃん』(田島征三 作、大日本図書)
かまきりがおやつにしようとしたいなごを助けるなかで、友情がめばえるというお話。かまきりの迫力が子どもたちには魅力的。いなごがさまざまな生きものからねらわれているということも自然に伝わる。そして、かまきりに親しみを感じるのがこの本のすてきなところです。
これからの世の中、虫たちに愛着や親しみを持っていくことは、本当に大切なことなのかもしれません。感性が豊かな子どもたちは、だれにも言われなくても、虫や自然と仲良くできると考えられるようです。
人間のためだけに地球があるわけではない、いま目の前にいる子どもたちが大きくなっても、自然がたくさん残っていてほしい。そんな思いにつながる大きな力が、絵本にはあると思っています。
安井素子(文・写真)
編集部より
身近な生きものの飼いかた、観察のポイントが書かれた『生きものつかまえたらどうする?』もおすすめです!
『生きものつかまえたらどうする?』(秋山幸也 文、松橋利光 写真、こばようこ 絵、偕成社)
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年以上。1997年から4年間、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、子どもたちとの日々をつづる。保育園長・児童センター館長を経て、現在は中部大学で非常勤講師として保育と絵本についての授業を担当。保育者向け講演会の講師や保育アドバイザーとしても活動している。書籍に『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)、『0.1.2歳児 毎日できるふだんあそび100ーあそびに夢中になる子どもと出会おう』(共著、学研プラス)がある。月刊誌「あそびと環境0・1・2歳」(学研)、ウェブサイト「保育士さんの絵本ノート」(パルシステム)、季刊誌「音のゆうびん」(カワイ音楽教室)で連載中。