カラフルで、軽やかで、ときにあこがれの空をゆうゆうととんでいく風船。子どもたちは、風船が大好きです。『あかいふうせん』(ラモリス 作/岸田衿子 文/いわさきちひろ 絵)は、その風船と子どもが友だちのようにかたい絆をむすぶようすを描いた、フランスのアルベール・ラモリス監督の映画「赤い風船」を、いわさきちひろさんたっての希望で絵本にしたものです。
さびしい男の子が出会った友だちは、赤い風船でした
主人公の少年パスカルは、ひとりっ子。子猫か子犬をほしがっていますが、部屋がよごれるから、とお母さんがゆるしてくれません。そんなパスカルは、ある朝、学校へいくとちゅう、いいものをみつけました。街灯の上にきれいなあかい風船が結んであったのです。パスカルは学校へその風船をもっていくことにしました。
風船というものは、いくら大切にしていても、ふとした瞬間に手をはなせばすぐにどこかへとんでいってしまう、はかない存在です。けれども、この風船はなぜかいっときはなれても、必ずパスカルの元に戻ってくるのでした。
––––そうか。きみは ぼくの ともだちなんだな。だから、にげたり しないんだな
それから、風船は、まるでパスカルになついた子犬のように、パスカルのいうことをよくきき、パスカルについてくるようになりました。ところが、この不思議な風船が、いじめっこたちの目にとまり––––。
風船と子どもは、なぜこんなに仲がいいのか
本書の原作であるフランス映画、ラモリス監督の「赤い風船」は1956年に発表され、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したファンタジーです。日本でも2000年代に再上映されるなど根強い人気があり、今みても色あせることのない、心うきたつ作品です。
絵本の文章は、岸田衿子さんが手がけ、映画とちがう場面や展開もありますが、この映画の魅力を存分にそなえた作品になっています。原作映画では、他の色をおさえて風船のあざやかな赤を際だたせる演出が印象的でしたが、絵本でもこの手法はいわさきさんらしい表現で、うつくしく再現されています。
岸田さんは、この絵本のあとがきでこのようにかいています。
––––なぜ、子どもは風船が好きなのか?
––––なぜ、風船はきれいなのか? 空へ飛びたがるのか?
––––風船のなかには、なにがはいってる?
––––風船と子どもは、なぜこんなに仲がいいのか?ラモリスの視点にたちもどることは、子どもの心の中にたちもどることです。
きっと絵本の『あかいふうせん』も、すなおに子どもたちの心にとどくこととおもいます。
子どもと風船のあいだにある不思議な愛情を、物語の力で形あるものにした、ラモリスの作品を、ぜひ絵本でも読んでみてくださいね。