鳥といっしょに空を飛ぶ。
動物たちとおしゃべりする。
10センチぐらいのこびとになり、こびとならではのはたらきで、人助け(動物も)をする。
こんなことをしてみたかったら、ニルスのように、トムテを虫とりあみでいけどりにして、からかってみよう!
『ニルスのふしぎな旅』は、親も頭を抱えるニルスのいたずらからはじまる物語です。乱暴で、いじわるで、生きものをいじめるようなニルスは、留守番中にトムテに悪さをし、怒ったトムテによって小さい体にかえられてしまいます。こびとになったニルスは、じぶんの家のガチョウが、通りがかりのガンの一団についていこうとするのを目撃し(ガチョウなのに、かなりだいたん!)、つかまえようとします。そして、ガチョウのモルテンの首をつかんだところで、めまいがするほど空高くつれていかれるのです。
当然のことですが、ニルスの物語は、飛行シーンが本当に爽快です。びゅーん!と、一気に舞い上がり、気がつくと足下には、ライ麦畑やクローバーの原、ブナの森が広がっているという一瞬を体感できるのが、この本の楽しいところ。空を飛ぶと、下から畑や樹々のいいにおいが気持ちよくたちのぼってくるらしく、そのにおいまで感じられるからおもしろい。このびゅーん!と一気に空からの視点になる感じ、今っぽいなあと思ったりします。110年前に書かれたのに、いまもぴんぴん新鮮な物語です。
ニルスのお話を読むと、「鳥の背中にのって空を飛ぶ」という魅力と同じぐらいに「動物たちがいきいきとおしゃべりする世界」のおもしろさに気がつきます。これは本当に楽しい! ガンの団長は、「さて、ガチョウくん。わたしは、スウェーデン第一の高山ケブネカイセのアッカというものだ。わたしのすぐ右わきに飛ぶガンは、ヴァシャウレのユクシ・・・・・・」とかっこよく自己紹介をはじめるし、ツルの宣伝隊が、「ツルのトリヌアートが、ガンのアッカとみなさんによろしく申しあげます。あす、キュッラベリで、ツルの大舞踏会があります」とふれまわる。
おしゃべりはするけれど、それぞれの動物らしいしぐさを見せ、そのバランスがたまらない。わたしも、向こう見ずで自由な性格のガチョウ、モルテン君と友情を育んだり、だれもが惚れるリーダー、アッカ氏が率いる一団に加わったりしたいものだと思ってしまいます。
偕成社文庫の『ニルスのふしぎな旅』は、4巻にわたる物語です。「な・・・・・・長い」と感じるかもしれませんが、この長さや表紙の素朴さ(4巻ほぼ同じ表紙絵なので、まちがえてすでに読んだ本を手に取らないよう、要注意!)に負けず、まず1巻を読んでほしいなあと思います。
そこからは、じぶんが面白そうだと思うところを選んで読んでいってもいいかもしれません。なにしろ、この本はスウェーデンの国土や自然、生きものを楽しく紹介するために書かれた作品なのです。まずは、ニルスとともにスウェーデンを旅しながら、好きなところに舞い降りて読みすすめられればいいのではないかなと思います。
そうして長い旅をしてきた最後に、ニルスとガンたちの美しいシーンがごほうびのように待っていますよ。
(編集部 小宮山)