誰にでも、いけないことだとわかっているのに衝動的にやってしまうという経験があるのではないでしょうか?
子供の頃には、何故かしっかりと自分の行いがばれて、叱られて、反省して、という一連の流れになることが多く、その時に良くも悪くも、ダメなことをしたら怒られるから止めておこう! というように、短絡的かもしれませんが、倫理観を身に付けたり考えたりするきっかけを他人から与えられていたように思います。しかし、大人になってくると、結局最後までばれなかった! というケースも増えてきて、他人に怒られる云々ではなく、何が正しいかは、最終的に自分自身が納得できることかどうか、ということに変わるのでしょう。
そういえば、小中学校の学習指導要領が新しくなり、小学校が2018年度から、中学校が2019年度から「道徳」の授業が教科化されます。この『一ふさのぶどう』をぜひ道徳の授業の題材として取り上げてもらえればと思っています。
この話の主人公の「僕」は小さい頃、絵を描くことが好きで、学校の行き帰りに見る、横浜山手の海岸通りの景色を描きたいと思っています。しかし「僕」の持っている絵具では思うような絵が描けません。西洋人の同級生のジム君の持っている上等な絵具は舶来のもので、その絵具があれば自分は美しい絵を描くことができると思い付きます。そうなると「僕」の頭の中が、ジム君の持っている絵具がどうしても欲しいという思いで埋め尽くされていきます。そして、「僕」は誰も見ていない教室で衝動的にジム君の絵具を盗ってしまうのです。しかし、すぐにその行為は露呈して、憧れの美人の先生に言いつけられてしまいます。
ダメなことだとわかっていながら、絵具を盗ってしまった「僕」が、ばれてしまった時に咄嗟に嘘をついてしまう場面や、憧れの先生に言いつけられた場面の雰囲気はとても臨場感があります。きっと読んでみると小学生の頃にタイムスリップしたような気持ちになることでしょう。物語のその後の展開は、良かったという感覚と、ノスタルジックな余韻が後を引くような締めとなっています。
私は読後、真面目にしないと、と思いました。少しの間? ですが、本当にそう思いました。今後、いけないことだとわかっているのに衝動的に何かをやってしまった時、かどうかはわかりませんが、忘れた頃にまた思い出して、読むことになるかもしれません。そんな本です。どうぞよろしくお願いします。
(販売部 嶋田)