みなさん、手紙は好きですか? 最近はメールやSNSでのやりとりが盛んで、紙にペンで書く手紙、というと少し身構えてしまうかもしれません。わたしもそうです。でもインターネットが発達する前は、個人から個人にあてた文章、というのは大体が手紙だったのですよね。小学生のときに雑貨屋や雑誌の付録で「レターセット」と言えばかなり特別なものでしたし、今でも年上の方で、すぐに葉書を送られるお話など聞くと、手馴れていて恰好いいなぁと思います。
さて今回ご紹介する偕成社文庫は、そんな手紙だけで書かれた物語『あしながおじさん』です! 前回『続・あしながおじさん』を紹介したので順番が逆になってしまいましたが、1巻目も当然、王道のおもしろさです。
孤児院で18年間暮らした身寄りのない女の子が資金援助を受け、援助をしてくれている「あしながおじさん」(仮名)宛てに、日々の出来事をお知らせする手紙……というと何だかお堅そうな暗そうな雰囲気なのですが、とんでもない! 主人公(というか手紙の書き手)のジュディは本当に楽しい良い子で、おじさんへの感謝の気持ちは常にありつつも、決して変にへりくだったり下手に出すぎたりせず、生き生きと日々の出来事や思ったことを素直に、たまに味のある絵もまじえながらつづっています。大学の4年間、最初はおじさんに対する緊張も感じられるのですが、だんだんと作家としての才能も発揮し、おじさんへの腹立ちもユーモアのある文章で書かれていて思わず笑顔になってしまいます。おじさんはジュディに直接の返事は一切書かないのですが、こんな楽しく素敵な手紙をしょっちゅうもらって返事も求められているのに無視できるなんて一体どういう人なんだ全く! と読みながら気になってきても安心。最後にはあっと驚いてもう一度最初から読み直したくなる種明かしがあります。そうしてたどり着いた最後の手紙は本当に幸せな一通です。
そんなわけで、エッセイ小説のようでもあるし、謎解き要素もあるし、恋愛小説かもしれない、いろんな楽しみ方ができる『あしながおじさん』なのですが、やはりジュディの文章がおもしろいのです。ちょっと抜粋しますと、
「女の子は美人でありさえすれば、頭がわるかろうがよかろうが、ぜんぜん問題じゃないと思いますけど。でも、うまいぐあいに、にたりよったりの頭のわるいだんなさんにめぐまれないと、話し相手になるだんなさんは、さぞかしうんざりするでしょうね、でも、そう心配することもなさそうです。世のなかには頭のわるい男性が山といるようですから」。
ちょっと切れ味が鋭すぎて現在SNSで取り上げられる辛口コメントのようですよね。これが100年前に書かれているとはびっくりです。もちろん服や食事の描写も素敵で、影響されやすいわたしは新しい服が欲しくなりました(決してジュディが贅沢をして服ばかり買っているわけではないです)。
そしてめっきり手書きの手紙を書くことが少なくなっているわたしですが、1年に1回、来年の自分あてに手紙を書く、という習慣を続けています。書いた1年後、その手紙を開封するのと同時にまた次の年への自分への手紙を書く、という簡易タイムカプセルのようなものでしょうか。1人だとなかなか面倒になってしまうと思うのですが、友人4人で始めたことなので、彼女たちに会うのも楽しみでもう10年近く続いています。『あしながおじさん』を読んで手紙を書きたくなったら、でも出す相手がいない! というときは、自分宛てに出してみるのもおすすめですよ。
(販売部 高橋)