老若男女古今東西、この作品を知らない人は居ないだろう。人を信じる事が出来なくなった王。生命をかけてメロスを信じる竹馬の友セリヌンティウス。荒れ狂う濁流や突如現れる山賊。おだやかなる生活の誘惑。それを振り払い、死刑になるために自ら走るメロス……。読み始めたら最後アドレナリンの噴出が止まらない超大作である。誰だって死ぬのは怖い。人に裏切られた経験だって必ずあるだろう。だからこそ、この物語は心に響く。本当に素晴らしい作品だ。
ところで、走れメロスといえば必ず話題になる有名な論文を皆さんもご存じだろう。第一回算数・数学の自由研究作品コンクール中学生部門で見事、塩野直道賞を取った『メロスの全力を検証』……俗に言う『走れよメロス』論文である(論文は財団法人理数教育研究所のホームページで公開されている)。前述のように本作は実に緻密であり、人物描写も空気感も完璧に作り込まれた傑作中の傑作だ。誰もが否応なくその話術の中に取り込まれてしまう。しかしM君は「本当だろうか?」と数学的に検証したのだ。なんて柔軟で素晴らしい頭脳だろう。
希代の天才2人の、文学を通した出会いに私は猛烈に感動している。
(販売部 西川)