夏は、高校野球の熱が高まる季節ですね。輝く高校球児たちに憧れ、練習にはげむ野球少年たちも多いのではないでしょうか。きょうご紹介する『海をかっとばせ』(山下明生 作/杉浦繁茂 絵)は、朝の海辺で素振りをする少年、ワタルの物語。スカッと気持ちのいい絵本です!
夏の大会に、なんとか出たい。ワタルの決意、そして挑戦!
ワタルは、今年から野球チームに入りました。今はまだベンチのメンバーですが、夏の大会では、ピンチヒッターでもいいからなんとか出たい、と強く思っています。
そして、ワタルは決心します。「まい朝、海べまで ランニングして、はまべで 百かい すぶりを しよう!」
初日の朝、海辺は風が強く、あたりには誰もいません。浜辺の流木はクビナガリュウみたい。ワタルは怖さを我慢して砂浜に立ち、バットを構えると、波が一番高くなる瞬間をねらって、力いっぱいバットを振ります。
ふしぎな男の子の登場、そして……?
しばらくバットを振っていると、だんだん腕が重たくなり、足がふらついてきました。そして66回目、ワタルは砂浜にしりもちをつき、波をかぶってしまいます。
その時、ワタルの前に、小さな男の子が現れました。「なにしてるんだ、そこで?」と聞くその子に、野球の素振りだと答えると、男の子は「わかった。それなら ぼく、れんしゅうを てつだってやるよ。」。そしてなんと波の向こうから、真っ白いボールを投げてくれたのです!
次々に投げられる真っ白いボールに、ワタルはバットを振りつづけます。命中すると、ピシッと気持ちの良い感触があり、打ちそこなうと、鼻の中まで、しょっぱいしぶきが飛ぶのでした。
夢中になってバットを振るうち、ワタルは本物のバッターボックスに立っている気持ちになっていきます。そして波のあちこちから、やったぞ! ホームラン! ホームラン! すごい! さいこう! ぎゃくてんだ! と、かけ声もとんできて……。
純真な少年の心と行動を描く、爽やかなファンタジー
この作品の作者は『かいぞくオネション』ほか数多くの著作があり、翻訳者でもある山下明生さん。絵は個性的なイラストで絵本や読み物を彩ってきたグラフィックデザイナー、杉浦範茂さんです。同じコンビの他の絵本に『まつげの海のひこうせん 』があります。
夜明け前の薄暗い海や、力いっぱい振られるバットの勢い、少しずつ夜が明けてあたたかくなる空、しぶきを上げ続ける波の鼓動、どれもがその文章と絵からつぶさに伝わってきて、自分も浜辺に立っているような感覚になります。
きっと最後はワタルと同じように、背中がほくほくして、爽快な気持ちになるでしょう!