「ありがとう」は、言う方も言われる方も幸せな気分になれる、すてきな言葉ですね。今回ご紹介する絵本はずばり『ありがとうのえほん』(フランソワーズ 作/なかがわちひろ 訳)です。
ニワトリ、お日様、お花……身の回りのものや動物たちに「ありがとう」!
「コケコッコー! おはよう おんどり ありがとう きょうも ぱっちり めがさめた」
「にこにこ おひさま ありがとう ぽかぽか おてんき うれしいな」
「ありがとう きれいな おはな ありがとう やさしく うたう ことりたち」
「わたし」は、朝目覚めると、朝を告げてくれたニワトリや、1日を明るく照らすお日様、きれいなお花やさえずる小鳥たちにありがとうを言います。
「おかしのたまごさがしは イースターのおまつりの おたのしみ こっそり かくしておいてくれる イースターのうさぎ ありがとう」
「クリスマスに プレゼントを もってきてくれる サンタのおじいさん ありがとう」
など、季節の行事も織り交ざります。そして最後には
「こんなに すてきなものを いっぱい くれた かみさま ほんとに ありがとう」。
自分の世界を支えてくれている、かけがえのない存在ひとつひとつに「ありがとう」を言う「わたし」の姿から、ふだんは気に留めていない小さなものの大切さに改めて気づきます。ページをめくるたびに、じんわりとあたたかい気持ちになれる絵本です。
作者の手放したくない大切な暮らしを描いた絵本たち
作者のフランソワーズは、フランス生まれの絵本作家。南フランスの農場の暮らしをもとにした「まりーちゃん」シリーズで人気を博しました。『ありがとうのえほん』でも、自然豊かな土地で、動物たちと暮らす素朴で満ち足りた生活が丁寧に描かれています。
訳者のなかがわちひろさんは、この絵本の刊行当時にこんなメッセージを寄せています。
フランスに生まれ育ったフランソワーズは、パリで子どもの本の編集の仕事をしたり、何冊が絵本をつくったりしたあと、アメリカに仕事の拠点を移します。そのときのアメリカは、さまざまな作家が活躍し、絵本の刊行点数も多く、後に<アメリカ絵本の黄金期>を呼ばれる時代でありました。その中でつぎつぎと出版される人気作家になってからも、夏はフランスの農場ですごし、まりーちゃんのような田舎暮しを楽しんでいたそうです。素朴でシンプルなお話は、作家の手放したくない大切な暮しを描いたものだったのですね。
この度刊行した『ありがとうのえほん』『わたしのすきなもの』『おおきくなったらなにになる?』は、フランソワーズの描いたたくさんの絵本の中でも、特別なもので、読者である子どもたちに直接語りかけるスタイルが新鮮です。ページをめくりながら、大切なもの、すきなもの、なりたい夢を思い描き、おはなしできたら、なんてたのしいことでしょう。古いものですから、時代の違い、文化の違いを感じさせるページもあります。でも、いろいろと心塞がれるような出来事の多い現代だからこそ、私たちの暮らす世界は、こんなにもあたたかく、すてきなものがいっぱいあるのだ、と子どもたちに伝えたくて、この3冊を紹介しました。どうぞ、一緒に絵本をひらいて、ゆったりとした時間をお過ごしください。
不安になったり、心が疲れたときは、少し息をついて、ぜひフランソワーズの絵本をめくってみてくださいね。