「昔話」ときいて、あなたが思い浮かべる主人公は、桃太郎、浦島太郎など、男の子や男性が多いのではないでしょうか。でも、実は日本には、元気でたくましい女性たちのお話が伝わっているのです! 『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』は、女の子、おねえさん、おばあさんが活躍する全国各地の昔話をあつめた読み物です。民俗学に造詣の深い作家、中脇初枝さんが、再話を手がけています。
こんなおはなし、あったんだ! 女性が活躍する20話のおはなし
『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』(中脇初枝 再話/唐木みゆ 絵)に掲載されているのは、全部で20のお話です。目次をみると、「わらしべ長者」「したきりすずめ」など、よく知られたお話も収録されています。ユニークなのは、その主人公が、みんな女性であること!
たとえば「わらしべ長者」の主人公は、「この一握りのわらを、小判千両にかえてきたものを、この家のあととりにしよう」と言われた3姉妹の末むすめ。上のお姉さんたちが、「こんなわら、一文にもならない」とわらを投げ捨てるなか、末むすめはわらを持って家を出て、わらを人のために使うことで、つぎつぎと良いものを手に入れていきます。
旅の途中でたくさんの銭を手にした末むすめ。いじめられていたさるを、銭を払って助け、縄をといてあげます。このさるが、のちに窮地におちいる末むすめを助けます。
「したきりすずめ」では、じいさまとばあさまが登場しますが、川から流れてきた箱に入っていたすずめを大切に育てるのはばあさまの方。食べ物をせがむすずめの舌を切ってしまったじいさまは、のちのち家をでていったすずめにこらしめられます。おばあさんがすずめの舌を切ってしまうお話がよく知られていますが、実は青森、秋田、新潟では、よいおばあさんとわるいおじいさんの「したきりすずめ」が伝わっているのだそうです。
ほかにも、実にさまざまな女性が登場します。信じられないほど力持ちな女の子、大きなおならをするお嫁さん、ほらふきなら負けない女の子に、盗みをはたらく女性の神様まで! それぞれのお話の最後に、「岩手県」「高知県」など、そのお話が伝わっている都道府県が記されていて、こんなにも多様性に富んだ女性たちの物語が、全国各地に息づいていたのか! と、びっくりしてしまいます。
中脇初枝さんは、作家であり昔話の語り手
この本の再話を手がけたのは、作家の中脇初枝さんです。大学で民俗学を専攻していた中脇さんは、さまざまな小説を書く一方で、昔話を各地で聞きとり、語りを行ってきました。この本でも一番最後の「おはなしについて」の項で、それぞれのお話がどう伝わってきたか、ほかにはどんなバージョンがあるかなど、詳しく解説しています。
文字を書けない人が多かった時代から、口でずっと語り継がれてきた昔話。意味はわからないけれど語感の良い、「どんどんはらい。」「とっちばれ。」「どんとはれ。」といった最後の結びの言葉など、声にだして読みたくなるものもたくさんあります。読み聞かせにもぴったりの読み物です。
最後に、中脇さんが「あとがき」で書かれたメッセージを引用します。
昔話のなかで生きる彼女たちにとって、しあわせな物語の結末とはなにか。それは、けっしてひとつではないのです。なんだかんだあっても、たくましく生きていく、彼女たちの活躍ぶりは、なやみながら生きるわたしたちを、力強くはげましてくれます。
どうか、わすれられつつあったこれらの昔話が、語りついできたひとたちの思いとともに、たくさんのひとにとどきますように。
あなたにも。あなたにつづくひとにも。
女性たちが待つ昔話の世界に、ぜひ入りこんでみてください。
*こちらの動画で中脇初枝さんが、ご自身の地元・高知の言葉で、この本に収録されているお話3話を語っています!
*女の子が主人公の昔話を絵本化した「女の子の昔話えほん」も刊行中です。この本に収録されている「おかねのはなし」を元にした『ちからもちのおかね』のほか、これまで知られてこなかった、海外の女の子が主人公の昔話も含めたシリーズです。