どんな人でも必ず流したことのある、涙。でも、泣く理由はさまざまです。いったいどうして泣いているのかわからない、というときもありますね。
きょうご紹介するスペインの翻訳絵本『どうしてなくの?』(フラン・ピンタデーラ 文/アナ・センデル 絵/星野由美 訳)では、おかあさんが小さな男の子に、詩のようなやさしい言葉で「泣くこと」について語って聞かせています。
「ぼくたち どうしてなくの?」マリオの質問にこたえるおかあさん
ある日、じっと考えごとをしていた男の子、マリオはいいました。「ぼくたち どうしてなくの?」
その質問に、おかあさんは考えながら、やさしく答えます。
「──そうね 「なく」には いろいろな「なく」があるの」
悲しいとき、「悲しい」が大きくなりすぎると、体からあふれて、なんとか抜け出そうとして泣く。
怒ったとき、おさえきれなくなって、黒い雲からふるはげしい雨のように、泣く。
自分のいるところがわからなくなったとき、暗闇で答えを探しているうちに、涙がこぼれる……。
まるで詩のようにやさしく、人はどんな気持ちのときに泣くのかを教えてくれます。
きっと なきたくて ただなきたくて なくときも あるはず
それは すごく たいせつなことよ
話し終えたおかあさんをぎゅっと抱きしめて、キスをするマリオ。みると、おかあさんは涙を流しています。
「おかあさん どうして ないてるの?」
マリオの質問に、おかあさんはにっこり、こう答えるのでした──「しあわせだなって なくことも あるのよ!」
見開きごとにあらわれるカラフルな世界。巻末には「涙」の解説も!
おかあさんが語る、さまざまな「泣く」の絵は、その状況をイメージさせるように描かれています。そこにいるのは、おかあさんを思わせる女の子。おかあさんの頭の中を描いているかのようです。
ページをめくるたびにちがった世界が広がり、どの絵もカラフルかつあたたか。「泣く」ということの裏にはさまざまな感情がある、ということが、絵のイメージからもやさしく伝わってきます。
また、巻末には、涙についての解説も載っています。種類や成分など、科学的な面からみた涙のこと、そして、涙は「みんながもつもの」であることも語られています。
「私たちはみんな人生のさまざまなときになみだをながします。わらうことと同じように、なくことは世界中のだれもがすることなのです。ところが「男はなかない」「なくな、しっかりしろ」「なくなんて女の子みたい」、そんな声をよく耳にします。しあわせなことに、いま、文化はすすんで、かわりつつあります。だれでもみんな、なくのです。子どもから若者、大人そして老人まで、男女にかかわらず、おおきい人もちいさい人も、ふとっている人もやせている人も、だれだってみんな、なくのです。」
小さな子どもも、悲しくもないのに涙が出る、それはどうして? と思うときがあるでしょう。涙の理由を知ると、その涙も温かな涙になるかもしれません。