2018年の発売から、3つの賞をとった絵本作品があります。田中清代さんの『くろいの』です。第4回ナミコンクールでパープルアイランド賞、小学館児童出版文化賞、そして、日本絵本賞で大賞を受賞し、いま注目をあつめている作品です。田中清代さんが文・絵ともに手がけた作品としては16年ぶりとなる絵本の魅力にせまります。
ひとりで帰るいつもの道で出会った、不思議な生き物
女の子がひとりで帰るいつもの道。大きな目をした不思議な黒い生き物に出会いました。塀やバス停、お花屋さん、女の子の歩く道の途中で。その“くろいの”はいつもひとりでぽつんとすわっています。どうやら他の人には見えていないみたい。
「ねえ、なにしてるの?」
思いきって声をかけたら、コトコトコトっとおりてきて、まるで道案内をするように歩きだしました。塀の穴をくぐってたどりついたのは、大きなお庭のある平屋のおうち。なにも話さない“くろいの”ですが、ふたりはなんだか通じ合っていて……。
いっしょの時間をすごすうちに、女の子の表情は、はじけるような笑顔につつまれていくのでした。
『トマトさん』の田中清代さんが16年ぶりに作絵を手がけた絵本
『くろいの』は、人気絵本『トマトさん』(福音館書店)以来、16年ぶりに著者の田中清代さんが作絵を手がけた、銅版画による絵本です。 2018年に発売してすぐに、世界的な絵本コンクールの1つである、韓国・ナミアイランド主催の第4回ナミコンクールで、日本人初となるパープル・アイランド賞を受賞。2019年には小学館児童出版文化賞、そして2020年には日本絵本賞大賞を受賞しました。
絵本としては長めの64ページの全編がモノクロの銅版画で描かれていて、女の子と“くろいの”がていねいに心を通わせていく様子が伝わってきます。どこに向かっていくのかわからないドキドキとした気持ち、そして、いちど心をほぐしたあとに待っているとびきりの楽しい時間。なにかを事前に共有していなくても、ちょっとしたきっかけですぐに仲良しになれる子どもならではのかけがえのないひとときを描きます。
ちょっと心ぼそいな、というひとりの時間をやさしくつつみこんでくれる不思議な生き物“くろいの”。子どもも大人も、誰しもが経験したことのある、そんな心の隙間の時間が思い出され、この見かけによらず礼儀ただしくて、気のいい生きものと仲良くなっていく女の子の体験をいっしょに分かち合うことができます。
あなたの出会う“くろいの”はどんな子でしょうか?