岩だらけで、動物も植物も生きられない山は、ひとりぼっち。あるときそこに、一羽のことりがやってきて……。
山とことりの間に生まれる普遍的な愛情と、自然が長い時間の中で変化していく様子を描いた絵本、『ことりをすきになった山』(エリック・カール 絵/アリス=マクレーラン 文/ゆあさふみえ 訳)をご紹介します。
一羽のことり、ジョイとの出会いで変わっていく山
このお話の主人公である「山」は、とおい昔から、ひとりぼっちで過ごしていました。岩だらけで、どんな生き物も住めない環境だったからです。
ところがあるとき、そんな山に、一羽のことりがやってきて、岩の上で羽を休め、歌をうたいました。
ジョイという名前のそのことりに、山はどうにかここにとどまってくれないかと頼みますが、食べ物も水もない山では、生き物は暮らせません。山の言葉はうれしかったので、また何度も来たいと思いましたが、ことりの短い命では、立ち寄れるのも2、3回のことです。
ジョイは、こんなことを思いつきました。
「そうだわ。私のむすめに、やはりジョイという名を つけましょう。そして ここへ くる道をおしえ、春ごとに あなたに うたをおきかせするよう いいのこします。それから その子がまた そのむすめに ジョイと名づけ、ここへ くる道を おしえるようにと。こうすれば、ジョイの名は つぎつぎに うけつがれ、なん年たっても 春になれば、あなたは ジョイの うたごえを きくことができますものね」
こうして毎年春ごとに、ことりのジョイが山のもとを訪れるようになりました。やがて、春を待ちわびては悲しむ山が、涙を流したことで川ができ、ジョイが岩の間に埋めた植物のタネからは芽がでてきて……。長い年月をかけ、山は少しずつ、緑におおわれていくのでした。
文化人類学者による文章と、カラフルで力強い絵で、「愛」と「自然の変化」を詩情豊かに描く
この本の文章を手がけたアリス=マクレーランさんは、文化人類学者。絵本の仕事はこの本がはじめてだったそうですが、長い年月による自然の変化を、山とことりの間の愛情とともに、みごとに表現しています。
エリック・カールさんの絵も、物語にぴたりと合い、ごつごつした岩肌や、あざやかな緑、カラフルなことりを、力強く描いています。
山とことりの、すてきな結末にも注目です。ぜひ読んでたしかめてみてくださいね。