ときは平安、源みなもとの頼より光みつの郎等(家来)として働く平たいらの貞さだ道みちは、1匹の妖怪の白きつねと出会います。 のちに頼らい光こう四し天てん王のうとして知られる貞道の若かりし頃を描く、歴史ファンタジー『きつねの橋』(久保田香里 作/佐竹美保 絵)。2020年、第67回産経児童出版文化賞JR賞を受賞した作品です。 妖怪の白きつねと助け合いながら成長する貞道 相模の国から京都にでてきた若者・平貞道は、源頼光の屋敷で郎等として働いています。あるとき、貞道の耳に、人間の女の姿で町の人々を化かす、妖怪の白きつねの噂が飛び込んできました。郎等として名を上げ、活躍することを目指している貞道は、自分がそのきつねを捕まえてやろうと町へ出ていきます。 はじめはまんまと化かされてしまう貞道ですが、持ち前の鋭さと意志の強さで、みごと白きつねを捕まえます。そして、葉月(はつき)と名乗ったそのきつねから人を化かす理由をきき、次第に打ち解けるようになります。葉月はまだ少女である斎院(加茂の大神につかえる皇女)を慕って仕えており、その斎院を守るため、人間の姿になって行動していたのでした。 少年時代の藤原道長の護衛をしたり、盗賊・袴はかま垂だれと対決したりと、郎等としてさまざまな経験を積む貞道。貞道がピンチのときには、葉月がどこからか助けにあらわれ、葉月が斎院のことで困ったときには貞道が手助けをし、と助け合うふたり。そしてあるとき、袴垂を捕まえる大きなチャンスがめぐってくるのですが……。 『今昔物語集』の内容をヒントに生まれたファンタジー 古典を読むのが趣味という作者の久保田香里さんは、『今昔物語集』のなかのエピソードから、この物語の着想を得たそうです。 その内容とは、貞道を含む源頼光の郎等3人が、祭の行列見物に行ったものの、なれない牛車に酔ってしまい、かんじんの行列が通るときはぐったりとねてしまっていた、というもの。屈強なイメージの強い武士たちの意外な姿が印象的だったといいます。 本書でも、武士たちの人間らしくユーモラスな一面が存分に描かれ、登場人物を身近に感じられるのが魅力です。 のちに、渡わた辺なべの綱つな、坂さか田たの公きん時とき、平たいらの季すえ武たけとともに頼らい光こう四し天てん王のうの一人として知られるようになる貞道と、同じく『今昔物語』が元になった妖怪のきつねの物語。とても読みやすいので、はじめて読む歴史ものにもおすすめですよ。 貞道に興味がわいたら、頼光四天王が活躍する物語、『酒天童子』(竹下文子 作/平沢下戸 絵)もぜひどうぞ!(こちらでは貞道は「碓井貞光」という名前で描かれています) ©︎佐竹美保 この記事に出てきた本 きつねの橋 酒天童子