きょうは3月11日、東日本大震災が起きた日です。大地震が各地を襲い、その後の大津波は、甚大な被害をもたらしました。
しかし、実際に体験していないと、テレビなどで伝えられるニュースが理解の範囲を超え、どこか現実感なく感じてしまうこともあります。とくに子どものときは、そうした出来事に実感がうまくわかなかったり、頭に残らず忘れてしまったりすることも……。
きょうは、日常のふとしたきっかけからほかの誰かの気持ちを考えられるようになっていく、子どもの心の成長を描いた絵本『みずたまり』(森山 京 作/松成真理子 絵)をご紹介します。
ブランコの下にできた水。のぞきこんで映った顔をみて、ある女の子を思い出す
雨のあと、遊び場のブランコの下に水たまりを見つけたタク。ブランコをこぐときに靴底が地面をこすり、そこに、水がたまってしまうのです。
タクが水たまりをのぞきこむと、映った顔が、ふと自分ではない誰かの顔にみえました。
その顔をみて、タクはふいに思い出しました。「あ、あのこ!」
それは、しばらく前にテレビでみた、よその国の女の子のことでした。
津波で家族をなくし、涙をこぼしていた女の子
その女の子は、ある日突然おそってきた津波に家をさらわれ、お父さん、お母さん、おばあちゃん、いもうとを失ってしまったのでした。
タクはそのとき、お父さん、お母さんと一緒にテレビをみていて、泣き出しそうになりながら、名前も年齢も知らないその子をみつめていました。
茶色くにごって家や車を飲み込んでいく大津波と、津波が起こる前の青く美しい海の映像をみて、あまりの差に別のものだと思うタクに、お父さんは教えてくれました。「いや、つなみが きた、さっきの うみだよ。ふだんは このとおり きれいな おだやかな うみで、たくさんの ひとが かいすいよくに くるんだよ」
次の日、タクはテレビで、津波で家族を失った子どもたちが歌っているのをみます。あの女の子はみつかりませんでしたが、子どもたちは泣いておらず、笑顔の子もいるようでした。
自分ではない誰かのことを考え、成長したタク
また遊び場のブランコを訪れたタクは、きのうの水たまりがなくなっているのをみつけました。へこんでいたところが、新しい土でかためられています。
そしてタクは、遊び場のすみで草とりをしているおじいさんに気がつきました。そういえばおじいさんは、よく遊び場のそうじや、花の手入れをしてくれています。
「あの おじいちゃんが あなを うめてくれたんだ」
すると、これまでよその人へ声をかけるのが苦手だったタクの口から、「ありがとう」の言葉が自然と出てきて……。
自分が実際には体験していないことを、体験した人と同じだけの気持ちで受け止めるのはむずかしいもの。でも、そのことに心をよせて、考えることは誰にでもできます。絵本を通してお子さんと、震災のこと、被災地のことを考えてみてはいかがでしょうか。