『さかなくん』(しおたにまみこ 作・絵)の世界では、人間も魚も、犬も猫も、みーんな一緒の学校に通っています。普段は水の中で生きるさかなくんは、どうやって地上の学校に通うのでしょうか? 私たちと同じようなごく普通の毎日だけど、どこかちがう、絵本ならではの別世界へつれていってくれる1冊です。
さかなくんは「だいたい」学校が好きです
絵本の主人公は、小学校に通うさかなくん。学校は、地上にあります。さかなくんは、ふだん水の中で暮らしているので、外に出るためにはいろいろな準備がいります。ゴムのずぼんをはいて、ヘルメットをかぶって、ひれにクリームをぬって……。
なにかと不便はありますが、さかなくんは「だいたい」学校が好きです。ただ、ひとつだけ、さかなくんには大嫌いなことがありました。それは、体育の時間。歩くのでさえ大変なさかなくん、走るのはもっと大変なのです。
ある日、そんな大嫌いな体育の授業で転んでしまったさかなくん。怪我をして学校を早退することになりました。
ひとり、部屋にこもって「いつも ぼくばっかり たいへんなんだ」とか「きっと みんな、ぼくのこと かっこわるいって おもってる」などと考えているうちに、だんだんむっすりしてきて–––– 「もう がっこうなんか いきたくない」。
そんな気持ちにたどりついたとき、「ぴんぽーん」と家の呼び鈴がなりました。同じクラスのにんげんくんと、トカゲさんが訪ねてきたのです。友だちが家にくるなんてはじめてのこと。さかなくんが学校へいくように、今度はふたりがヘルメットをかぶって、水の中にあるさかなくんのうちに遊びに来て–––– 。
私たちの日常と似ているようでどこかちがう『さかなくん』の世界
『さかなくん』の世界では、当たり前のように、犬や猫、鳥や人間、魚が同じ学校に通っています。絵本ではめずらしくない設定なのですが、私たちの世界とそっくりの背景が、それをよりリアルなものに感じさせてくれるのが、この絵本の楽しいところ。登下校の道は? 給食の時間は? 先生は? 自分たちのそれとくらべて、どこもかしこも興味津々で見渡してしまいます。
また、いろんな生き物が同じ学校に通う、ということで、一見、至極ユートピア的な世界にみえるのですが、よくよく観察するとさかなくんのように、他のみんなにも、やっぱりいろんな不便や悩みがありそう。「さかなくん」の物語は、多かれ少なかれ、誰しもがとらわれたことのある、そんな悩める気持ちを、やさしく、軽やかにもしてくれます。
みればみるほど、いろんな想像をめぐらせられるこのふしぎな世界に、ぜひ、さかなくんといっしょに、ちゃぽんと入ってみてくださいね。