都会のアパートの15階の部屋に、心を病む母親と二人きりで引きこもっていた12歳のウィル。ヤングケアラーだった彼は、ある日交通事故で母親を亡くし、大自然に囲まれた湖水地方の谷に住む伯父イアンのもとで暮らすことになる。だが、悲嘆とトラウマを抱えるウィルは、イアンに心を開くことができない。唯一仲よくなったのは、ネイチャーキャンプで出会った陽気な少年オマールだけ。アフガニスタンからの難民であるオマールもまた、遠く故郷を離れ、家族を失った傷を抱えていた。
ウィルは鳥に対しては母親譲りの強い情熱を持っていた。ネイチャーキャンプの初日、ウィルはオマールと登った山で、イギリスでは絶滅危惧種の猛禽類、ミサゴの巣を見つける。そこにはいたのは二羽のふわふわのひなだった。ウィルにはミサゴとの出会いが偶然とは思えない。
「わたしたちはみんな、鳥になってもどってくるのよ、ウィル」
全編を通して何度も繰り返される、亡き母の言葉が頭に響く。
雨の夜、ウィルはホワイトティップと名づけたひなが巣から落ち、怪我をしているのを見つける。絶滅危惧種の鳥に触れてはいけない。自然に介入してはいけない。頭ではわかっていても、ウィルにはホワイトティップが自分の母親と重なって見えた。この子は絶対に助ける。そう決意したウィルはひなを連れ帰り、オマールの協力を得て、家畜小屋でこっそり育て始めた。
ところが、懸命な世話にもかかわらず、ホワイトティップは弱り、死にそうになる。もはや自分一人の力ではどうしようもない。そう悟ったウィルは、初めて他者──伯父のイアンに助けを求めた。自分のためではなく、鳥のためだからこそ、勇気を振り絞って助けを求めることができたのだ。
そこから物語は一気に進む。ミサゴを救うために、谷じゅうの人たちが一丸となって結集するところは私の大好きな場面だ。ふだんは森の奥に住み、誰とも話さないカーさんまでがやってくる。こんなふうに人を動かし、結びつけることができる動物の力はすごい。
そして、ウィルは、もう一人でがんばらなくてもいいのだと気づく。他者を信頼する気持ちが芽生え、この谷をわが家だと、イアンを家族だと感じられるようになっていく。だが、イアンとの生活は一時的なもので、ウィルはじきにオーストラリアの祖父母のもとに行くことになっていた──。
それにしても、かつては都会のアパートの一室に閉じこもっていたウィルが、ミサゴを助けるために、切り傷だらけになりながら険しい岩山をよじ登る姿は感動的だ。美しくも厳しい大自然の懐のなかで、ウィルは自分の内にある思いもかけぬ強さに気づき、成長していく。
ウィルを取り巻くキャラクターも皆魅力的だ。ぶっきらぼうで無口だが、底なしの優しさを秘めた山岳救助隊員の伯父イアン。野生動物保護に情熱を注ぐ獣医のピップと自然を愛するキャリー・アン。悲しみを抱えながらもユーモア精神にあふれ、わずか10歳とは思えないたくましさを見せるオマール。
そして、なんといっても圧倒的な存在感を放つのはミサゴだ。翼を広げると2メートル近くにもなる堂々たる鳥は、野生の美しさと威厳を体現している。ピップやウィルが繰り広げるミサゴの救助活動の様子に、野生動物に興味のある読者は引き込まれるにちがいない。
この物語には、心の病、ヤングケアラー、難民、戦争、人と野生動物の関係など、重要なテーマがいくつも重層的に織り込まれている。読者はウィルとともに、手に汗握りながらミサゴ救出作戦に参加するうちに、それらのテーマにも目を開かれるだろう。
はたしてホワイトティップは無事野生に帰れるのか? そして、ウィルの運命は? 最後までハラハラしながら読了したあとは、希望が胸いっぱいに湧き上がってくる。たとえ傷を抱えていても、人は生きていけるのだと──。子ども向けの本を読んでこんなに感動したのは久しぶりだ。



