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作家が語る「わたしの新刊」

「ほっぺたでつくる“たこ焼き” 」から生まれた、さわって楽しいあかちゃん絵本! 中村至男さんインタビュー

2023.05.17

本のまんなかにあいた穴から指をはみださせて……ぷっくり、ぽっこり! さわると気持ちよく、さわられると、まるで自分の指ではないようなふしぎな感覚を味わえるしかけ絵本『ぷっくり ぽっこり』。
作者でありグラフィックデザイナーの中村至男さんに、本作のアイデアの源や本づくりについてお話を伺いました。
 
 
 

本のまんなかにあいた穴から指をぷっくり、ぽっこり!

 
この絵本が生まれたきっかけを教えてください。
 
もう何年も前に、担当の編集者さんから、赤ちゃん向けの絵本を考えてみませんか、と提案がありました。それまで僕は『どっとこどうぶつえん』『はかせのふしぎなプール』(ともに福音館書店)など、幼稚園や保育園の年中・年長さん以上の子どもたちに向けて、「わかる」ことのおもしろさが伝わるような絵本をつくっていたので、まったくべつのジャンルでチャレンジしたいという思いもあって、考えてみることにしました。
 
そんなときに思い出したのが、「穴から指をはみださせる」というものでした。仕事場に、いろいろなアイデアを試作したものが入っている箱があるのですが、そこに入れたままになっていたものでした。

原型となった試作品

小さめの穴は、ベルトに穴をあける「ベルトポンチ」であけられた

 
子どものころ、指でつくったわっかをほっぺに当てて「たこやき」をつくって遊んだりしましたよね。赤ちゃんがたのしんでくれるものってなんだろう、って考えを巡らせたときに、そんなふうに本能的な身体性をともなう遊びには何度やっても飽きないおもしろさがあるなって思ったんです。
 
それで、試作品を見てもらって制作がスタートしたんですが、それからも紆余曲折ありましたね。
 
 
最初のラフを見返すと、より抽象的・デザイン的なものがおおい気がします。
 

企画当初の試作。絵とテキストがわかれていた

 
 
 
グラフィックデザイナーの性(さが)か、最初は抽象的でデザイン的なものを模索しました。でも、いろいろな子どもさんに読んでもらうなかで、どうやら「顔」がおもしろそうだということに行き着きました。いちばん身近にあるものだし、赤ちゃんを抱っこしたりすると、鼻をさわられたりしますよね。そんなことも思い出しながら、知恵を超えた、より原始的なおもしろさにしようということで、モチーフを顔に統一することに決めました。
 

編集部のデスクにずらりとならんだダミー(一部)


試作をつくりながら、もうひとつ大きく変わったのは、本の大きさです。もとは赤ちゃん絵本のマスターピース、
『じゃあじゃあびりびり』(偕成社)とおなじ大きさにしようと思っていたのですが、中央の穴に指をあてようとしたときに、手の小さい人だと届きづらい、ということがわかってきた。それじゃあまずいねということで、最終的に11cm×11cmという、絵本としてはかなり小さめのサイズにすることにしたんです。結果的には、手のおさまりがよくなって、道具のような使いやすさとかわいさが増しましたね。
 
 
 
制作している間、世間はずっとコロナ禍でした。人と会うのがオンラインになり、「さわる」ということにも距離が生まれて、物質的なものからどんどん離れていくような印象もありました。
 
普段のデザインの仕事はデジタルのものもおおいので、印刷物の絵本であることの意味はなんだろう、ということをよく考えます。本という「かたち」のあるものだからこそできるものはなんだろう。スマホやタブレットではなく、物体であるからこそのおもしろさとは……コロナ禍だったからこそ、よりそのことについて深く考えていた気がします。
 
 

これは実際にやってもらうとわかるのですが、読み聞かせをする大人から見ても、穴からはみ出させるだけなのに、さわるとまるでじぶんの指じゃないようなふしぎな感覚になるんです。それを赤ちゃんがちろちろとさわると、なんだかくすぐったくてうれしい気持ちにもなる。これは紙のしかけ絵本ならではのコミュニケーションだと思いました。
 
 
最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
 
今回、はじめての赤ちゃん絵本ということで、こんなに手探りで試行錯誤しながらの本づくりははじめてだったけど、ものづくりはこうでなくちゃ、というひりひりした気持ちをあじわいました。たくさんの人の協力を得ながら時間をかけて練りあげたおかげで、かわいくておもしろい絵本になったとおもいます。
 
『ぷっくり ぽっこり』は、子どもと大人がいっしょにたのしんでもらえるようにつくりました。子どもさんといっしょの時間をたのしむ、コミュニケーションをはぐくむ絵本になっていたらうれしいです。
 
ありがとうございました!
 

中村至男(なかむら・のりお) 
神奈川県生まれ。日本大学藝術学部卒業、ソニー・ミュージックエンタテインメントを経てフリーランス。おもな仕事に「単位展」21_21 DESIGN SIGHT、銀座メゾンエルメスのウインドウディスプレイ、アートユニット「明和電機」のグラフィックデザイン(1993~)、佐藤雅彦氏とのプロジェクトとして、プレイステーション用ソフト「I.Q」など。著書に『どっとこ どうぶつえん』『どっとこ むしずかん』『たなのうえひこうじょう』『はかせのふしぎなプール』『ゆきだゆきだ』 (すべて福音館書店)、『サンタのコ』 (MUJI BOOKS)など。受賞に、ニューヨークADC銀賞、ボローニャ・ラガッツィ賞優秀賞、第20回亀倉雄策賞、2018毎日デザイン賞など。http://nakamuranorio.com

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