以前、デッキまで人であふれている新幹線に乗ったときに、泣きやまない赤ちゃんに困っているお母さんに出会ったことがあります。
こんなとき、赤ちゃんの泣き声はとても響き、あきらかに不快な顔をしている人もいた。
少し離れたところにいるわたしがいたたまれない気持ちになり、「こんなときにかぎって泣くね。ちょっと暑いのかもしれないよ」と、だっこひもで抱っこしているお母さんに声をかけ、赤ちゃんをおろすのを手伝ってあげました。
そのときのお母さんのホッとした顔をよく覚えています。
こんな風に声をかけることができるようになったのも、年を重ねたからかもしれない。
でも、若くても若くなくても、勇気をもって声をかけてあげられる人がたくさんいると、お母さんたちも安心して電車やバスに乗ることができると思うな……。
子どもって、なぜ「ちょっとがまん」ができないのでしょうね。
つい先日も、スーパーで泣きわめく3才くらいの子どもに、「いいかげんにしなさい! だからつれてくるのイヤなんだって!」と怒っているお母さんに遭遇。
となりでは、お兄ちゃんらしい子が、どうしたらいいのかわからない顔をしていた。
こういう場面で、もし、子どもをたたいたり、置きざりにしたら大変なこと……。
でも、イライラするお母さんやお父さんの気持ちもわかる。子どもって、なんで「ちょっとがまん」ができないのでしょうね。
怒っている親がいれば、まだ2才にもならない子が大泣きしているとなりで、「ここは、たくさん人がいるからね。大きい声をだしたらいけないんだよ」と、子どもの両手をしっかりにぎり、一生懸命説得しているお母さんを見かけることも。
でも説得しようとすると、子どもはますます大声で泣いて、思いっきり反りかえる。
まわりから見られている気がしたり、せつない気持ちになったりしている親の気持ちもやっぱりわかる。
下の子をだっこしているときに、「だっこ~」と泣くお姉ちゃんにほとほと困ったことが。
わたしも二人の子どもを育てたのですが、まだ歩けない下の子をだっこしてでかけると、2才のお姉ちゃんが「だっこ~」とせがんで泣きだしたことがありました。
若かったわたしはほとほと困りはて、「そうなの、わかったよ」と、下の子を地面におろして、上の子をだっこした。
「お母さんの手は2本しかないからね。しかたないから、赤ちゃんはここに置いていくね」と言うと、さすがに驚いた顔をして「赤ちゃんもつれてく! 歩ける!」とお姉ちゃんが言い出した。
いまのわたしくらいの人が当時のようすを見ていたら、「なんてお母さん!?」とあきれてしまったでしょうね。
2、3才の子は一筋縄ではいかない。
いつもながら、なかなか「これ」という対策ってないですね……。
赤ちゃんだったら、「おなかが空いている」「暑い」「知らない場所だ」「人見知りをしている」など、あれこれ考えたら、少しは手立てがあるかもしれません。でも、2、3才の子は、一筋縄ではいかない。
以前、わたしが勤める保育園に通う子で、言葉の理解より、視覚のほうが優先という子がいました。目で見たほうがわかりやすいという子です。
保育園がお休みの日に、その子とおうちの人が「おひるねから起きたら買いもの行こうね」と約束していたそうです。でもなかなか起きなくて、やっと目覚めたのが、夜の8時すぎ。「もう、お店閉まっちゃったから、明日ね」と伝えても、近所にきこえるくらいの声で泣いていたそう。
おうちの人は、「結局、お店までいっしょに行って、閉まっていることをたしかめました」と言っていました。
とくにこだわりが強くなくても、小さい子は経験が少ないので、こんなふうに「見せて伝える」というのはひとつの方法です。
外出先のことを事前に知らせておくのも大事。
赤ちゃんから成長して、ちょっと大きくなったら、なにをしに行くのかをでかけるまえに知らせておくのも大事。
大型スーパーへでかけるなら、最初に全体の地図をいっしょに見て、「きょうはここと、ここに行くね」と伝えておくと、うまくいくかもしれません。
買いものに関しては、お母さんやお父さんがのんびり楽しみたいときに、おじいちゃん、おばあちゃんに協力してもらうとか、近所に見ていてくれる人がいるコミュニティーがあったらいいですね。
お母さんやお父さんがリフレッシュするために「一時保育」を利用できる自治体も多いので、調べてみるのもいいと思います。
愛しくて抱きしめたくなるときがあれば、ほとほと困りはてるときもある(どうしてもかわいいと思えないときには、まわりに相談しましょう)。
子どもが泣きわめいて困るようなときは、そんなに長くは続きません。だれかに助けをもとめる方法も考えましょう。
まわりにいる人も、みんなで子育てしていくという気持ちでいきたいですね。これからの時代を担う大事な子どもたちなのですから。
外出先では、絵本が活躍する。
電車やバスに乗るときに、お気に入りの絵本をもっていくというのもいいかも。とくに、小さくて丈夫なボードブックがおすすめ。
『ボードブック 1、2、3どうぶつえんへ』(エリック・カール 作、偕成社)
『ボードブック はらぺこあおむし』(エリック・カール 作、もりひさし 訳、偕成社)
こういうボードブックを、ちょっと特別なふくろに入れて隠しておいて、そこから取りだしてみると、一瞬泣きやんでくれるかも!
「怒りすぎちゃったな」と思うときは、お父さんやお母さん自身が、こんな本で気持ちを切りかえてみるのはどうでしょうか?
『おかあさん だいすきだよ』(宮西達也 作、金の星社)
なかなか、理想のやさしいお母さんやお父さんではいられないけれど、子どものことをちゃんと考えているんですよね。そんなことが伝わる絵本です。
安井素子(文・写真)
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より、公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年近く。1997年から、4年間、椎名桃子のペンネームで、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、園での子どもたちとの日々を、エッセイにつづる。書籍に、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスでの連載をまとめた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)がある。現在、保育雑誌「ピコロ」(学研)で「きょうはどの本よもうかな」、生協・パルシステムのウェブサイトで「保育士さんの絵本ノート」を連載中。保育・幼児教育をめぐる情報を共有するサイト「保育Lab」では、「絵本大好き!」コーナー(https://sites.google.com/site/hoikulab/home/thinkandenjoy/picturebooks)を担当している。保育園長・児童センター館長として、子どもと一緒に遊びながら、お母さんやお父さんの子育て相談も受けてきた。現在は執筆を中心に活動中。