少女のまっすぐな眼差しと、その瞳に映り込む光が印象的な絵本『ダーラナのひ』(nakaban 作)。ひとり旅の途中で浜辺に立ち寄った少女が、焚き火をとおして「いつか、どこかにいた自分」を思い出す、ゆったりとしたひとときを味わえる一冊です。
旅の途中、自然のささやき声に導かれた少女は……
ダーラナは旅のとちゅう、浜辺にたどりつきました。あたりは夕日に包まれ、まもなく夜を迎えようとしています。「ダーラナ ダーラナ わたしたちを あつめてごらん」「たきびをして あたたまっていきなさい」ささやき声にみちびかれ、ダーラナは枝をあつめて火をつけようとしますが、マッチがなかなか見つかりません。
すると、夕日の最後のひとかけがはじけて、枝のこやまに飛び込みました。ちいさな火は、だんだんと大きくなって、ダーラナをあたためます。やがて、夜も深くなってきました。火を見つめるダーラナが思い出したのは……。
火を見つめると思い出す、はじまりの記憶
火を見つめることはふしぎと、心を空っぽにして、癒しをあたえてくれるものです。大きく燃え上がったり、だんだん弱くなって宝石のようになったりする、姿をかえてゆらめく火。それを見つめるダーラナの瞳をとおして、読者もいっしょに火を見つめているかのような、ふしぎな感覚をおぼえます。
鮮やかな色彩で描かれた焚き火の炎や夕焼けと、漆黒のコントラストが美しい本作。作・絵を手がけた作者のnakabanさんは、刊行時のインタビューでこのように語っています。
ダーラナは、どこからやってきて、どこへ向かうのか。絵本の中ではまったく明かされません。でも、そんなことはどうでもいいのです。火を見つめて、心に余白が生まれたとき、あなたの心に浮かぶ景色はなんでしょうか。忘れていたけれど、ずっと心の中にあった、大切な「はじまりの記憶」を思い出すきっかけになる一冊です。