町はずれに立つ、ちいさな木。何年もそこに立っていた木は、とあるきっかけで、みずからの足を動かし冒険に出かけることに! 今回は、自由に広がる可能性を感じさせてくれる、角野栄子さんの絵本『ちいさな木』(佐竹美保 絵)をご紹介します。
「やってみなくちゃ わかんないよ」。そう言われてためしてみたら……木が動いた!
町はずれに何年も立っていたちいさな木のところに、ある日1匹の犬が現れました。スタン スタン スタン とやってきたその犬の名前はゴッチ。つなを食いちぎって家出してきたといいます。
「これから じぶんの すきなところに いくんだ」
それを聞いて、「いいな、わたしも いきたーい!」と思ったちいさな木。でも自分は動けないから……とすぐあきらめかけますが、「やってみなくちゃ わかんないよ」というゴッチに手伝ってもらうと、なんと根っこがぬけて、イッポ イッポ と歩けるようになったではありませんか!
こうして、ゴッチと、自分を「キッコ」と名づけたちいさな木は、スタン スタン スタン、イッポ イッポ イッポ と歩いて冒険をはじめます。旅の途中、同じようにこれまで動いたことのなかった岩や沼と出会い、彼らもキッコのように、はじめての一歩を踏み出して、冒険の仲間に加わります。
さあ、みんなの旅は、どこまで続くのでしょう。「じぶんのすきなところ」に、辿りつけるのでしょうか?
『魔女の宅急便』豪華コンビによる、背中を押してくれ一冊!
本作の文章を手がけたのは、数々の名作を世に送り出してきた角野栄子さん。童話や読み物を多く書かれていますが、本作ではよりみじかく、やさしい言葉で、ちいさな木の物語をつづっています。
絵の佐竹美保さんは、角野さんと「魔女の宅急便」シリーズ(福音館書店刊)で長年タッグを組まれ、ほかにもたくさんの本で挿絵を担当しています。絵本を手がけるのは珍しく、本作ではたっぷりと佐竹さんの絵を楽しむことができます。絵は全体を通してモノクロが基調になっていますが、物語の終盤に、緑色が広がるシーンがあります。とても美しく印象的な場面で、ちいさな木たちの冒険が、自由で広がりあるものであることが伝わってきます。
なんだって、やってみないとわからない。できないと思っていたことが、案外できてしまうこともあるし、やりたいと思ったことは、気のすむまでやってみていい。そんなあたたかいエールを届けてくれる一冊です。読んだらきっと、背中を押してもらえることでしょう!