昔話といえば、「浦島太郎」や「桃太郎」、「一寸法師」など、男性が主人公のお話を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。女性が主人公であっても、「シンデレラ」や「白雪姫」など耐え忍び、王子様に選ばれる受け身の存在のものがよく知られていたりします。しかし、これらは、各地で語り伝えられてきたお話のほんの一部。日本や世界には、もっと豊かで、へこたれずに自分なりの幸せをつかむ女性たちのお話が存在します。
これまで知られてこなかった、女の子が活躍する昔話を厳選し、中脇初枝さんによる再話で絵本化したシリーズが「女の子の昔話えほん」です。大判で読み聞かせにもぴったりな本シリーズの内容を、1冊ずつご紹介します。
この子にはだれもかなわない!『ちからもちのおかね』(伊野孝行 絵)
おかねは、とっても力持ちの小さな女の子。大きな相撲取りをたったの3歳で追いはらい、成長すると殿さまにも認められるほどになりました。やがて、腕利きの猟師になり、天狗や化け物を相手に大活躍! 四国の山合いで広く語られる「おかね」の話ですが、本作では、高知県西部・幡多地方を中心に伝わるいくつかの伝承をつないで、ひとつの物語をつむぎました。イラストレーター・伊野孝行さんの、躍動感あり、おかしみありの絵もみどころです。
ひらめきと友達の助けでピンチを切り抜ける『わたしがテピンギー』(あずみ虫 絵)
テピンギーは、おかあさんがなくなって、あたらしい母親とくらしている女の子。ある日、知らないおじいさんの召使いにされることを知ったテピンギーは、友達の家をまわって、あることを頼みます……。女の子たち一人一人は弱くても、力を合わせれば困難を乗り越え、幸せになれることを教えてくれる、ハイチに伝わる昔話です。あずみ虫さんによる絵は、金属の板を切って、絵の具で着彩する技法で描かれています。その質感にも注目!
人をだますサルに怒った女の子が、仲間と一緒にサル退治!『マーヤのさるたいじ』(唐木みゆ 絵)
川でひろった桃の種から、大きな桃の木をそだてたマーヤは、ずるいサルにだまされて、おいしい桃をとられてしまいます。怒ったマーヤはおにぎりをつくり、サル退治にでかけます。
「さるかに合戦」や「桃太郎」など、力を合わせて悪者を退治する昔話は日本で広く伝わっています。その多くは動物や男性が主人公ですが、このお話がつたえられた奄美諸島の沖永良部島では、マーヤとよばれる女の子が主人公です。「マーヤ、マーヤ、どこへゆく」と声をかけてくるのは、どんなものたちでしょうか? 唐木みゆさんは、実際に島を訪れるなどして、沖永良部島の海や空の色合いを描いてくれました。
娘に手伝いをさせるためなら、世界の果てまで突き進むお母さん!『花をさかせたがらない小さなキャベツ』(うえのあお 絵)
手伝いをしたくない女の子と、手伝いをしてもらうために、どこまでもでかけるお母さんが主人公! 女の子がキャベツに水やりしたくないといったので、お母さんは、子犬や小枝、火や水と、いろいろなものに頼みにいきます。最後にでてくるのは、なんと……!?
できごとが次々につながっていく「だんだん話」や累積譚と呼ばれるお話。お母さんがページの右へ進み、また帰ってくるというお話にあわせて、絵にも工夫が。ページをめくると絵が地続きでつながっている画面構成はうえのあおさんのアイデアです。ものごとがどんどんおおごとになっていく、そんなおもしろさがある、フランスに伝わる昔話です。
鬼の家からおもわぬ宝を持ち帰った女の子『おだんごころころ』(MICAO 絵)
転がるおだんごを追いかけて、鬼の家にきてしまった女の子。おだんごを気にいった鬼たちに、もっとたくさんつくるようにいわれますが……! 精緻な刺繍や、かわいい模様の古布でえがかれたMICAOさんの絵は必見です。四万十川の上流域に位置する、旧西土佐村に伝わる昔話です。
小説家であり、昔話の語り手・中脇初枝さんが再話
再話したのは、『きみはいい子』『世界の果てのこどもたち』などの話題作で知られる作家、中脇初枝さん。中脇さんは、小学校6年生のときに出会った柳田國男の『遠野物語』をきっかけに民俗学に夢中になり、大学では民俗学を学びました。それ以来昔話を各地で聞きとり、語ってきました。 本シリーズは中脇さんが、女の子が主人公の昔話を再話し、絵本化したものです。
同じく中脇さんが再話した昔話集『女の子の昔話』『世界の女の子の昔話』も刊行中です。絵本と合わせてご覧ください。