『しばてん』『ふきまんぶく』『とべバッタ』など、大胆な筆づかいで、ほとばしる生命の躍動を描いてきた絵本作家・田島征三さん。今回は、田島さんが少年の日の原体験をテーマに取り組んだ意欲作『つかまえた』(第68回産経児童出版文化賞・美術賞受賞)をご紹介します。
川に飛び込んで、魚を「つかまえた!」
夏のある日、川の浅瀬に大きな魚がいるのをみつけたぼく。
そうっと近づいていったら、足がすべって、まっさかさまに水の中へ。のばした指が魚にふれると、するりと逃げられた。「にがすもんか にがすもんか」と、ぼくは無我夢中でそれを「つかまえた!」。
つかまえた魚をだいて、魚にだかれる夢を見たぼく。目が覚めると、魚はぐったりと草の上。ぼくはあわてて、川へ魚をつれていく……。最後は意外な展開で、読者をほどよいユーモアでつつみこみます。田島さんの作品ならではの、躍動感あふれる場面展開もみどころです。
生命を手づかみにしたときの「グリグリ」という感触を描く
高知県の自然豊かな土地で幼少期を送った田島さんは、著書『人生のお汁』で、魚を手づかみにした体験について次のように語っています。
子どものとき、魚を手づかみにするのが得意だった。(中略)ドンコはぼくの手のなかで、命がけであばれる。そのときの『グリグリグリッ!』という感触は、いまも手のひらに残っている。
さっきあんなにあばれた魚が、今ではバケツのなかで白いお腹を見せている。(中略)ぼくたちは命のはかなさを感じて泣いた。グリグリグリッは“命のひびき”そのものだった。あの振動のなかに、命のすべてがあった。
初めて生命をつかんだときの「グリグリ」という感触が、自分の創作の原点だと語る田島さん。今回の絵本はまさにそのことをテーマにしたものです。
大きな見開きいっぱいに広がるのは、太い線で力強く描かれた少年の顔と、必死で逃げる魚、渦巻く川の流れ。じっと見ていると、少年といっしょに川の流れに飲み込まれてしまうような感覚を味わえます。
田島さんの幼少期とはちがい、今の子どもたちには「生命をつかむ」体験が減ってきています。だからこそ、絵本を通じて追体験してみるのも大切かもしれません。
▼田島征三さんによる『つかまえた』の読み聞かせ動画を配信中!
https://www.youtube.com/watch?v=Q2nlUFKgZlg