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今週のおすすめ

この旅、過酷すぎる! 2度にわたる河下りの道中記『たまたまザイール、またコンゴ』

みなさん、旅行記はお好きでしょうか。なかなか旅行に行けないときも、旅行記を読むと、その土地の空気や道中の描写で、一緒に旅をしている気分になれますよね。しかし、きょうご紹介する旅行記は、あまりにも過酷、でもふしぎなパワーに満ちあふれた、なんとも強烈なもの! 舞台はアフリカのコンゴ。昼間でも外を歩けないほど危険な町、そのままの姿で燻製にされたサル、いつやってくるか分からない船……。「なんだそれ!?」の連続の一冊です。


1991年と、21年後の2012年。2度にわたる河下りの旅

 この本では、作家・翻訳家で、アフリカや中東各地を旅行・取材している田中真知さんが、1991年に奥さんとザイール(現在のコンゴ民主共和国)を旅した時のことと、その21年後の2012年、再びコンゴを訪れ、現地在住の日本人の若者と旅した時のことが、2部構成で語られます。
 
 まずは1991年。知り合いの日本人男性の、「丸木舟に乗ってザイール河を下った」という話に魅せられた田中さんは、乗り気でない奥さんを言葉巧みに誘って、ザイールへの旅を決行します。
 
 旅程は、キサンガニという町から、大型の定期でブンバという町へ行き、そこから丸木舟に乗り換えて、ンバンダカというゴールの町を目指す、というもの。大河ザイール河に沿って進んでいく、まさにジャングル・クルーズです。


 そう聞くとなんだかワクワクしますが、最初の船に乗るところから、「なんだそれ!?」の旅は始まっています。事前情報では“クルーズ船”だとうたわれていたその船、オナトラ船は、そもそもいつ港にやってくるかわからない「幻の船」。そして、いざその姿を見れば、およそ優雅なクルーズ旅など不可能な、人や動物や物資がぎゅうぎゅう詰めの、まるで動く村のようだったのです!

これ全部がひとつの船とは驚きです! 移動手段であると同時に、それ自体が市場や暮らしの場所と化しているオナトラ船。ヤギやブタが繋がれ、水揚げされた大ナマズや燻製のサルたちが転がり、5000人もの乗客がひしめいています……。


 ブンバでオナトラ船を降り、丸木舟を調達して始まった河下りの旅も、予期せぬ出来事の連続。河に沿って点々とある村を訪れて泊めてもら
う日々では、蚊の大群に襲われる、アリに咬まれる、お腹を下す、マラリアにかかる(!)といった身体的苦労に次々と見舞われます。
 
 また、立ち寄る村ごとに、さまざまな人々との出会いと別れがありました。村人総出で歓迎してくれた村では、酒とごちそうがふるまわれ、歌と踊りの夜を過ごします。一方で、貧しくて荒んだ村があったり、病気やケガで簡単に人が亡くなる現実に、ショックを受けることもありました。
 

手こぎの丸木舟。全長7.5メートルあり、操作がむずかしい

 
 最後、やっとの思いで目的地のンバンダカに辿りついたとき、田中さんは「こんな愚にもつかない、とほうもなく無駄で、底抜けにばかばかしい、たまらなく幸福な旅をすることは、もうけっしてあるまい」と感じたそう。
 
 しかしその21年後、田中さんは再び、コンゴ民主共和国を訪れて河下りの旅にでていました! 後半で綴られる2012年の旅では、91年の旅との違いが見えてきます。
 
 2度の旅の間に、ザイールでは大統領が変わり、国名はコンゴとなり、540万人もの犠牲者を出した激しい紛争を経験しました。いったん紛争は終結したものの、治安は悪く、政情もきわめて不安定な緊迫した状況。首都キンシャサでは、昼間であっても外国人は危険でいっさい外に出られないほどです。旅にも前回と違う緊張感が伴います。
 
 とはいえ、コンゴ河(かつてのザイール河)がたたえる雄大さは、21年前と変わらないままでした。すぐお金や物をねだる、けれどもどうも憎めない村の人々も相変わらずです。2度目の河下りの仲間、シンゴ君とのやり取りにも、クスッと笑ってしまいます。
 
「これホント、ジャングルクルーズですね。ディズニーランドのジャングルクルーズじゃなくて、本物なんですね!」
もう少し気の利いたことをいえないものかと思うが、若者なのでゆるす。
「ディズニーランドは四歳から行っているんで、自分にとってはノスタルジーなんです。あー、女の子とディズニーランド行きてーなー」
「……」
「ドラえもんの『のび太の大魔境』の舞台もコンゴなんですよ。マチさん、みました?」
「みてない……」
「あれ、好きだったんですよ。あー、本当に来ちゃったんだなー」

茶色いTシャツが田中真知さん、黄色いTシャツがシンゴ君こと高村伸吾さん。


斎藤茂太賞・特別賞も受賞。旅気分を味わえる、読み応えたっぷりの一冊

 この本は2016年、旅にかかわる優れた著作を表彰する「斎藤茂太賞」の第1回で、特別賞を受賞しました。田中さんの文章は、コンゴに馴染みがない読者にも、旅の道中の様子を生き生きと伝え、自分も含めた人々の醜い部分、あたたかな部分を、余さず書き起こしています。また、歴史にも踏み込んで説明することで、旅で出会うさまざまなものの輪郭がはっきりと見えてきます。
 
 読み終えた時には、まるで自分もハード旅を終えたような気分になるはずです。田中さんと一緒に、この旅に挑戦してみませんか?
 
 最後に、いつ出発するとも知れない船をはじめ、あらゆることがままならない旅を田中さんがどう受け取っていったかが伝わってくる、本の中の一節をご紹介します。
 
 (前略)世界は偶然と突然でできている。アフリカだろうとアジアだろうと、世界のどこだろうと、人は偶然この世に生まれ、突然、死んでいく。生きるためにいちばん必要なのは、それらのどうしようもない偶然を否定したり、ねじ伏せたりする力ではなく、どのような偶然とも折り合いをつけていく力だ。

人がびっしり乗った輸送船

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今日の1さつ

2年前から一人暮らしです。書店で本を目にして、トガリネズミの愛らしいすがたに、つい買ってしまいました。主人公がとてもかわいくて、1ページ、1ページ色んなことを想像して、楽しくて、最後読み終わったとき、「そっか〜良かったね」と声が出てしまいました。ほんわかとやさしい気持ちになり幸せでした。(60代)

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