仲良しの2人の少女、えりとエミ。えりは家族の都合でエミのいる横浜を離れ、山口に引っ越しました。手紙の、自然あふれる山口での暮らしを共有しながら、2人は、不登校になっている幼なじみ・けんちゃんのことを案じるのですが……。
『あららのはたけ』(村中李衣 作/石川えりこ 絵)は、自然のふしぎ、いじめに向き合う子どもの心を、往復書簡あたたかく描いた作品です。
エミ
えりと同い年の幼なじみ。横浜の小学校に通っている。
おばあちゃんが亡くなり、一人暮らしになったおじいちゃんのために、家族で横浜から山口へ引っ越したえり。おじいちゃんから畑をもらい、世話をすることになりました。
草むしりをして、イチゴやハーブの苗を植え、木につく毛虫や木の実を狙う鳥たちとたたかい……。えりは、その様子を横浜にいるエミに、手紙で詳細に伝えます。
たとえば、畑にはびこるシロツメクサを、えりははじめ「根を広く張って、ふまれてもふまれても立ち上がる“雑草魂”」とうらめしく思っていました。でも、おじいちゃんが意外なことを教えてくれ、えりはその驚きをエミに伝えました。
ここからがびっくり。ほんとはね、そんなことないんだって。
「雑草はふまれるとな、いっぺんは起きあがるけど、もういっぺんふまれたら、しばらくはじいっと様子見をして、ここはどうもだめじゃと思うたら、それからじわあっと根をのばして、べつの場所に生えかわるんじゃ」
ねえ、すごくない? ふまれたりきずつけられたりしたら、おんなじ場所でがんばらなくてもいいんだって。
しばらく様子見をして、場所をかえて生きてもいいんだって。
わたしね、いままで畑どころか草のこともなんにも知らなかったんだな。あたりまえに思ってたこと、ぜんぜんあたりまえなんかじゃなかったのかも。
だからね、けんちゃんのことだって、ほんとはもっとちゃんと、伝えてあげられることがあったんじゃないかなって、いまになって思うんだ。
エミ、会いたいよ。
それぞれの暮らしのこと、親友「けんちゃん」のこと
手紙の中に登場するのは、2人の幼なじみ、けんちゃん。仲良く育ってきた3人ですが、学校でのいじめによって、けんちゃんは部屋にこもってしまっているのです。
えりが出会う自然のふしぎ、そこで感じたことを書き送るうち、横浜にいるエミも、いろいろなことを感じるようになります。
そして、遠くにいてもエミと同じくけんちゃんのことを思う、えりの気持ちも乗せて、勇気を出してけんちゃんの家に行ってみることに! さて、えりとエミの気持ちは、けんちゃんに届くのでしょうか。
それぞれの家族や友達の人間味が、2人の視点からみえてくる面白さ、互いの思いに耳を傾け、ともに共感しあって友達のことを一心に考えるあたたかさ。2020年、第35回坪田譲治文学賞(※)も受賞した今作をぜひお手にとって、その魅力にふれてみてください。
畑の作物も、虫も、生きてるものたちはみんな自分のペースで生きていて、人間から見たらあららと思うようなことも、あたりまえにやりこなしてる。それを知ると、自分と他の人をくらべて悩まなくてもいいやって思えてくるから不思議。
(作者 村中李衣さんより)
(※)岡山市出身の児童文学作家・坪田譲治の業績を称えて設立された賞。「大人と子どもが共有できる世界を描いたすぐれた作品」に贈られます。