絵本好きにファンの多い出久根育さん。ブラティスラヴァ世界絵本原画展でグランプリを受賞するなど高く評価され、2005年からはチェコのプラハに移り住んで作品を描いていらっしゃいます。今回ご紹介する『十二の月たち』はその出久根育さんによるスラブ民話を絵本化した作品。雪を描くのがお好きという出久根さんが、スラブの冬のようす、そして季節の恵みのうつくしさを存分に表現した1作です。
美しい少女マルシュカは、まま母の家で……
人公のマルシュカは、まま母とその娘ホレナと暮らす少女です。まま母とホレナは、日に日に美しくなるマルシュカをねたみ、彼女に掃除や料理、洗濯などをすべてやらせ、自分たちはなまけてばかりいました。
雪が降りつむ1月のある日のこと。ホレナはマルシュカに。
「マルシュカ、山からスミレの花をつんできてちょうだい。かおりをかげるように、おびにつけたいの」
「ああ姉さん、雪の下にスミレがさいているわけがないわ。」
「くちごたえしないで、さっさと山へおいき。スミレをもってかえらなければ、ただじゃおかないわよ!」
雪のなか山へむかったマルシュカは、あまりの寒さに希望を失いそうになりますが、そこで、焚き火にあたる12人の男、十二の月たちに出会います。
「どこにスミレがさいているのか、おしえてください。」
マルシュカの目の前で十二の月たちのうちの「三月」がつえをふりかざすと……またたく間に、まわりは春のスミレ畑に! 両手いっぱいのスミレを摘んだマルシュカは、無事に家に帰ることができました。
ところが、ホレナはその後も、イチゴやリンゴなど、季節はずれのものをつぎつぎとってくるよういいつけ––––。
すべてを封じこめてしまう雪と、季節がもたらす恵み
ときに、おそろしいほどのきびしさを見せる、スラブ地方の冬。現地に住む出久根さんは、取材のため、自らの足で雪深い山をおとずれ、目で見て、肌で感じた風景をそのまま描いたそうです。
まるで自分たちも吹雪のなかにいるかのような、凍るように冷たい風が画面から吹きすさぶ一方、春や夏、秋の花や実がなる場面では、読者の心もぽかぽかとあたたまります。また、おしゃれなホレナの民族衣装のような色とりどりの服や、画面のはしっこでまた別の物語をつむいでいる猫たちなど、すみずみまで眺めて満足感を得られる1冊です。
初期の作品から、日本人離れした重厚で幻想的な作風が特徴の出久根育さんは、スロバキアの画家、ドゥシャン・カーライ氏にも師事されて絵を学ばれました。偕成社から出ている絵本は、ほかに『おふとんのくにのこびとたち』『マーシャと白い鳥』『あめふらし』などぜひご注目ください。