沖縄、普天間基地の移設計画地、県内北部にある辺野古・大浦湾。沖縄のなかでも特有の地形が、他にない豊かな自然を育んできたこの海には、サンゴの他にもたくさんの生き物が暮らしています。『わすれたくない海のこと』は、沖縄の海に恋し、移住をしたカメラマンの中村卓哉さんが、基地の報道をきいたことをきっかけに、大浦湾をおとずれて記録した写真絵本です。
山・川・海がささえる大浦湾特有の地形
サンゴ礁の生息地として知られる大浦湾は、深い森にかこまれています。この森が、海の豊かさのヒント! 森で栄養をたっぷりとふくんだ「水」が海にそそぐことで、海にも豊富な栄養をもたらすのです。
本書では、海にそそぐ水の旅を、森、川、マングローブ、干潟、そして海まで、写真とともにたどってゆくことができます。その途中では、たくさんの生き物たちとも出会い、海と森がきってもきりはなせない、ささえ合う存在であることがわかってきます。
作者のあとがきにある、大浦湾の地形の解説をご紹介しますね。
辺野古・大浦湾の海の特徴は、山から流れてくる川の存在です。大浦湾は、山原(ヤンバル)とよばれる深い森にかこまれています。うっそうとしげるこの森で、動物や昆虫の死がい、落ち葉などが長い時間をかけて土の中で分解され、栄養としてたくわえられます。この森がたくわえた栄養は、水によって海まではこばれます。雨水が森をぬらし、川になり滝を経て、マングローブの森と干潟を通り、やがて海へと流れこむのです。森、川、滝、マングローブ、干潟。栄養をはこぶのに、それぞれが大切な役割をはたしています。
大浦湾、そしてその周辺に住む生き物たち
森と海がひとつなぎで作用しあいながらある環境には、森、川、山と海の間のマングローブや干潟、浅瀬の海、深い海と、それぞれの場所ならではの生き物が住んでいます。たとえば、上流に暮らすのはスジエビや、ボウズハゼ。下流にいるのはヌマエビや、アサギマダラ。そのほか、干潟やマングローブの森にくらすミナミトビハゼなどなど。
海の中ものぞいてみましょう。
まずは、表紙にもなっている、ディズニー映画で一躍人気となったカクレクマノミの仲間、「ハマクマノミ」。これは、ハマクマノミが、サンゴにはりついたイソギンチャクをすみかとしている様子です。イソギンチャク自体が育つ要因は、山やマングローブの森から届いた豊富な栄養にあります。
もうすこし進むと海はさらに深くなります。外海の水が合流して新たな栄養をはこび、サンゴはぐんぐん大きく育つのです。なかには、幅50メートル、高さ12メートルにもなる群落も! 成長してできた暗がりで魚の身をかくしてくれたり、生き物たちに必要な酸素を与えてくれたり、サンゴはたくさんの生き物たちのくらしの中心になっています。
このほかにも、川から影響をうけやすい泥の海や、ジュゴンが餌を食べに来る海草がひろがる海など、深く切れ込んだ形の湾だからこそ、さまざまな環境がある大浦湾。その環境ならではの多様な生き物が生を営んでいます。
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森から海へ旅をするなかで、個性豊かなたくさんの生き物たちと出会える本書。現地へ赴くことは叶わずとも、写真絵本で大浦湾の自然、そして海の中をのぞいてみませんか?