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拝啓 かこさとしさま

NHKアナウンサー

村上里和 〜拝啓 かこさとしさま〜

 やわらかな青空を見ていると、かこさんの優しい笑顔が思い浮かびます。天国でも、きっとお元気にお過ごしでしょうね。亡くなられた後も、新しい絵本や童話集が出版されたり復刊されたりと、天国でも忙しくお仕事をしていらっしゃる姿を想像しています。

 幼いころからかこさんの絵本はいつもそばにありました。「だるまちゃん」シリーズや「からすのパンやさん」のシリーズを始め、『はははのはなし』や『地球』などの科学絵本も何度も読み返し大切にしていました。奥付の著者紹介で微笑む黒ぶちのメガネをかけたかこさんのお顔は、知り合いのおじさまのように記憶に刻まれていました。二人の子どもたちとも、かこさんの絵本を読みました。自分が子どもの頃に読んた絵本を再び子どもと楽しめる喜び。そして、40年経っても新作が出ている驚きとわくわく感をくださるかこさんにずっと憧れてきました。いつかお会いできたら! と、子ども時代の私も、大人になった私も、一人の読者として願っていました。

 そんな長年の夢が叶う機会が訪れたのは2016年のこと。「ラジオ深夜便」のインタビューでお会いできました! インタビューをお願いする運命の電話をご自宅にかけた時、どきどきはマックスの状態でした。呼び出し音が鳴って……なんと、かこさとしさんご本人が出られたのです。かこさんは「いいですよ。ただ、今月は90歳の誕生日で、いろんな方がお祝いをしてくださることになっていて時間がないので、4月になってからでもいいですか」とおっしゃられて。4月下旬にご自宅に録音機を持って伺いました。

 600冊あまりの本を生み出されたかこさんへのインタビュー。どんな構成でお話を伺うか悩みました。事前に娘さんの鈴木万里さんが相談にのって下さり、かこさんが考える「記念碑的な絵本」をいくつか挙げていただきました。『だむのおじさんたち』『美しい絵』『しろいやさしいぞうのはなし』『万里の長城』『ピラミッド』『ヒガンバナひみつ』……などの絵本の中に『矢村のヤ助』が入っていました。この絵本には、他の絵本とは違う何かがあるように感じてとても惹きつけられました。日本の昔話をもとに創作された物語で、かこさんの米寿を記念して復刊され、全国の公立図書館に寄贈された絵本とのこと。買って読む絵本ではなく、かこさとしさんからの贈り物として全国の図書館に存在している絵本と知りました。優しさと誠実さ、強さと覚悟の物語。何度も読むうちに、このヤ助にはかこさん御本人が乗り移っているように感じるようになりました。私の勝手な解釈ですが、かこさんはどうおっしゃるでしょう。

 インタビューでは、日本が戦争をしていた時代のご経験から「自分で考え、正しく判断する力がいかに大切なことか」を語ってくださいました。そして、子どもたちの生きる力をかこさんは強く信じていらっしゃいましたね。

「子どもたちはいろんな興味を持つから、それに正しく答えていて、いつまでも古くならない絵本を作らないといけない」

 かこさんが一冊一冊の絵本に込めた願いと希望は、何が起こるか分からない不安定な世の中を生きる私たちを、根本のところで励まし支えてくださっていると感じています。

 最後にお伝えしたいことがあります。かこさんのインタビューの放送後に多くの反響が寄せられました。その中に、80代の男性からのお手紙がありました。「このような絵本作家の方がいらっしゃるとは感動しました。高校生の孫娘に『かこさとしさんって知っているか』と聞いたら『良く知ってるよ。小さいころ絵本をたくさん読んだ』と言うので、自分も図書館へ。かこさんの絵本をたくさん積みあげて児童書コーナーで夢中になって読んでいたら、隣に座った小さな子に『おもしろいの?』と声をかけられました。3才のお友達ができました」というものでした。何て素敵な出会いが生まれたのでしょう!

かこさんの絵本は、これからもたくさんの出会いや笑顔や夢を生み出されていくことと思います。かこさとしさんは永遠です。

村上里和


村上里和

NHKチーフ・アナウンサー。1989年NHK入局。札幌局・アナウンス室を経て、現在は〈ラジオ深夜便〉アンカー・制作を担当。子育て世代を応援する番組「みんなの子育て深夜便」を自らの提案で立ち上げ、月に一度放送中。みんなの子育て深夜便 – NHK

絵本や児童文学が大好きで「絵本専門士」の資格を取得。著書に『子どもを夢中にさせる魔法の朗読法』(共著・日東書院)。

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今日の1さつ

2年前から一人暮らしです。書店で本を目にして、トガリネズミの愛らしいすがたに、つい買ってしまいました。主人公がとてもかわいくて、1ページ、1ページ色んなことを想像して、楽しくて、最後読み終わったとき、「そっか〜良かったね」と声が出てしまいました。ほんわかとやさしい気持ちになり幸せでした。(60代)

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