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拝啓 かこさとしさま

作家

くどうれいん 〜拝啓 かこさとしさま〜

2023.05.25

はじめまして、くどうれいんと申します。岩手県盛岡市の山や林がたくさんあるところで育って、いまは柳と川のそばで暮らしています。まだまだ、ほんとうにまだまだはじめたばかりですが、作家として仕事をしています。短歌やエッセイを書くことも多いのですが、近ごろは絵本を書くことにいっとうわくわくしています。

わたしは小さなころ、おばあちゃんの家で暮らしていました。おばあちゃんの家は、大工のおじいちゃんが建てました。おじいちゃんはやさしいけれど、やさしすぎたのか、建てた家はところどころゆがんでいました。ビー玉を置くとゆっくり転がるのがたのしくて、玄関の広間で弟と腹ばいになって、転がるビー玉にげらげら笑い転げて大きくなりました。畑で穫れた野菜は夏になれば穫れすぎてしまうくらいで、おばあちゃんはごつごつしわしわした手でトマトやきゅうりやなすを収穫しながら、かたちの悪いものや虫食いのものは、「えっ」とわたしが思わず声を出してしまうくらい躊躇なく捨てました。その、野菜を腐らせておくための畑の一角に、からすがよく来ました。おばあちゃんはそこに残飯も捨てました。からすが来ると、「そーりゃ、来たぞお」と言ってなぜだかうれしそうで、母はそういうおばあちゃんのことをいやがって、からすのこともきらいだと言いました。からすは目が合うとおそってきたりするから気をつけなさいと言われました。たしかに下校しているときに、ガードレールに人をこわがらないからすがいると、同級生たちは頭をおさえながら「こえー」と逃げるように走り出したものでした。

かこさん。けれどわたしは、からすの好きなこどもでした。母や同級生がいやがるからすのことを、わたしは好きだったのです。胸元がぎらりと虹色にひかる鳩のほうが、なんだか得体が知れなくてこわかったくらい。わたしがからすを好きだったのは、ぜったいにかこさんの「からすのパンやさん」のせいです。だってあんなにやさしくて、げんきで、けなげなからすを見てしまったら、下校中にわあわあ群れになって飛ぶからすも、みんなパンがたべたいのかしら、と思ってしまうじゃありませんか。かこさんの描くからすは、ひとりひとりちがうところが好きです。つり目のが居たり、まつげがあるのが居たり、おっとりしたのが居たり、うわさ好きそうなのが居たり。わたしたち人間のように、いろんな性格のものがいるようでした。にぎやかで、すこしまぬけで、おいしいパンが大好きなからすたちをページを何度もめくり返しながら、ときどき指差したりして眺めるのがわたしは好きでした。たくさんのパンがぎっしり並ぶページなんて、何度ほんもののパンならいいのにと思ったことか! ちょこんと乗せられた白いコック帽に憧れて、大学生の時は、コック帽を被ることができるアルバイトをしたことだってあるんです。

かこさんの絵本のおかげで、わたしはからすが「かあ」と大きな声で鳴くと「かあ!」と言い返すこどもになりました。かこさん、知っていますか? からすのまねをそっくりにしたいときは「かあ」と言うよりも「はあ!」と言ったほうが、ほんものみたいになりますよ。

いま、こうしてご縁あって絵本を書くお仕事をしているのも、からすが好きな子だったおかげだって、大袈裟じゃなく、本当にそう思っています。

くどうれいん


くどうれいん(俳句短歌は工藤玲音名義)
作家。1994年生まれ。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、『虎のたましい人魚の涙』(講談社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)など。初の中編小説『氷柱の声』で第165回芥川賞候補に。現在群像にてエッセイ「日日是目分量」、小説新潮にてエッセイ「くどうのいどう」、NHK出版「本がひらく」にて「日記の練習」、HanakoWEBにて「くどうれいんの友人用盛岡案内」連載中。ミシマ社より新刊エッセイ『桃を煮るひと』が刊行される。

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