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放課後の文章教室

第2回 友情を書く 1

魅力的な文章の魅力とは?

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

––––ツイッターを使って、友だちを増やしたいと思っています。どうすれば、人の目に留まって、大ぜいの人に読んでもらえるような、魅力的な文章(140文字)が書けるのか、教えてください。以前、ブログをやっていたことがあるんですが、長い文章を書くのが苦手なのと、ブログはだれも読んでくれていないので、むなしくなって、やめました。千葉県在住、現在高3の女子です。

 質問のメール、確かにいただきました。
 どうすれば、人の目に留まって、大ぜいの人に読んでもらえるような、魅力的な文章が書けるのか? 
 私もその答えが知りたいと思いました。
 作家はみんな、知りたがっているのではないでしょうか。どうすれば、本屋さんで人の目に留まって、大ぜいの人の手に取ってもらえるような、魅力的な作品が書けるのか。
 まるで魔法みたいな、画期的な方法があるのであれば、作家は苦労しませんね。もしかしたら、だれでもかんたんに作家になれて、世の中は、作家だらけになってしまうかもしれません。
 魅力的な文章。
 それは、書こうと思って書けるものではないし、どんなにがんばっても書けないこともあるし、書ける方法があるわけでもない。魅力的な文章を書こう、などと思わないで書いた文章が、たまたま魅力的になることもあれば、ならないこともある。そういうことなんだと私は思います。
 どういうことなのか、まったくわからない?
 ごめんなさい。もうちょっと、書いてみましょう。
 たとえば、ある本を読んで感動したとき、あなたは「感動的な文章」に感動したのでしょうか? そうではなくて、その作品の何かが心の琴線に触れ、心を揺さぶられて、あなたは深い感動を味わったはずです。
 そして、あなたに感動を味わわせくれたからこそ、その「文章は魅力的だった」と、言えるのではないでしょうか。
 つまり、魅力的な文章というのは、結果に過ぎないわけです。
 それだけを目的にして、文章を書くことはできない、とも言えるでしょうか。要は、魅力的な文章とは、そこに書かれている魅力的な内容と分かちがたく結びついている。文章と内容を切り離しては考えられない、ということです。
 「魅力的な文章」の「文章」を「人」に置きかえてみてください。
 魅力的な人とは、見た目やファッションだけが魅力的なのではなく、その人の性格、考え方、立ち居ふるまいなどが魅力的であるはず。
 文章も、それと同じことなのです。
 
 さて、せっかく質問をしてくださったあなたに、魅力的かどうか、目に留まるかどうかはひとまず脇へ置いておいて「大ぜいの人に読んでもらえる文章」について、ひとつだけ、ヒントを差し上げましょう。
 大ぜいの人に読んでもらうためには、何をさておいても、わかりやすく書くことです。大ぜいの人、というからには、子どもからお年寄りまで、老若男女がふくまれていますね。あなたは高校3年生ということですが、あなたの書いた文章を、たとえば小学1年生の子が読んでも、何歳も何十歳も年上の人が読んでもちゃんと理解できるように、あなたの言いたいことが相手に伝わるように、まずはそのことを心がけて、書いてみてください。
 そう心がけるだけで、あなたの書く文章はほんの少し、変わってくるはずです。
 小学1年生の子に読んでもらうためには、わかりにくいことば、あなた自身でさえ意味のよくわからないことばは、使えなくなりますね。逆に、今、高校生のあいだだけで流行っているようなことばも、年配者には理解できないかもしれません。
 どんなことばを使えばいいのか、どんなことばを使うべきではないのか、あなたの内面に、ひとつの基準というか、決まりのようなものができてきます。
 あなた自身のつくった、あなただけに通用する決まりでいいのです。
 その決まりがあるかないかで、文章は大きく変わってきます。
 たとえば私の場合には、流行語はできるだけ使わない、ネガティブな表現を避ける、主語を明確に書く、カタカナ表記は必要最低限にとどめる、などなど。まだまだほかにもありますが、あくまでも私の決まりなので、あなたはこれに従わなくていいですし、決まりは、時が経つにつれて、変化していってもいいです。私もかつては、「のだ」「である」は使わない、という決まりをつくっていましたけれど、今はもう廃止しました。
 わかりやすく書かれた文章は、それだけで魅力的です。少なくとも私にとっては、とても魅力的です。まず「読んでみよう」と、私なら思います。
 けれども、最初のほうにも書いたように、読んでみた結果、感動することもあれば、まったくしないこともあります。私にとって魅力的なことが何も書かれていなければ、最終的には、私はその文章を魅力的だったとは、決して思わないでしょう。
 文章とはそういうものです。ひとすじ縄ではいきません。奥が深いのです。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。同志社大学卒業。小説家。詩とメルヘン賞、海燕新人文学賞、島清恋愛文学賞、ボローニャ国際児童図書賞などを受賞。2019年には『ある晴れた夏の朝』(偕成社)で、子どもの本研究会第3回作品賞、小学館児童出版文化賞を受賞。主な作品に『エンキョリレンアイ』『きみの声を聞かせて』『アップルソング』『思春期』『初恋まねき猫』『放課後の文章教室』『空から森が降ってくる』など多数。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。

今日の1さつ

子どもが2歳になり、急にのりものが大好きになりました。この本は同じく車が大好きだった私の弟が小さい頃気に入って毎日読んでいたもので、私も一緒に見ていたのでとても懐かしかったです。もちろん子どももすぐに気に入り、毎日のように寝る前に読んでいます。(2歳・お母さまより)

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