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作家が語る「わたしの新刊」

「言葉の習得」より大切なことがある。日本語を教えてきた著者の絵本『ランカ にほんにやってきたおんなのこ』

現在、全国の学校に4万人以上いる、外国につながりのある子どもたち。この絵本は、異国の地で悩んでいる子どもたち、そして言葉が通じないため、どう接して良いかわからずとまどっている日本の子どもたちに、届けたい1冊です。

日本語教師である著者が、長年子どもたちと接する中で感じた「なにか問題があったとき、乗り越えるための力になるのは、言葉以前の“誰かとのつながり”だ」という思い。このメッセージが絵本として結実するまでを、著者の野呂きくえさんと絵を描いた松成真理子さんに伺いました。


––––この本を出版することになった経緯を教えてください。

フィンランドの絵本を翻訳したくて偕成社の編集者にもちこんだところ、訳文の日本語がおもしろいと、これまでの活動のことを聞かれました。聞かれるままに日本語の先生をしていることや、生徒のエピソードをお話ししたら、その子どもたちのことを書きませんかと言っていただいたのが最初です。

––––ふだん、外国につながりのある子どもたちに日本語を教えているという野呂さんですが、教えるなかで心がけていることや、子どもたちと接するなかで、感じていることがありましたら教えてください。

心がけていることは、生徒に自信を持たせることです。

クラスでともだちもいなくて、日本語もテストもできなくて、ストレスを抱える子もいます。ですから、日本語の授業では、漢字テストや読解テストの時、ヒントをたくさん出して100点を取れるようにしています。

そして、ひらがな・カタカナ・漢字・文法・作文指導・語彙を教える時は、手製の絵のカードを使ったり、ゲームを通して子どもたちが楽しく学べるように工夫しています。楽しく学んだ後は、笑顔でクラスに戻れるからです。

実際に教えていると、ゆっくり覚える子もいるし、覚えのはやい子もいます。その子に合わせて教えることも心がけています。「何回間違えてもいいよ、何回でも教えるよ」と思っています。

––––本を読んで、たとえ言葉が通じなくても、自然と受け入れてくれる仲間がいる、学校のなかに居場所があるということが大切なんだと感じました。

そうですね。子どもたちと接していて感じるのは、子どもたちは担任の先生とクラスメイトが大好きだということです。

ともだちがいなかったら、学校も楽しくないのです。ですから日本語の授業でともだちの話題がでたり、休み時間にクラスメイトと肩を組んでいたりするとほっとします。ともだちがいれば、わからない言葉にかこまれて寂しくなっても乗り越えられるように思います。

––––野呂さんがこどもたちに伝えたいことをおはなしにするまでに、どのようなことを考えましたか。

この本はいろいろな国の何人もの子どもたちのつぶやきから生まれました。それが「ランカ」の国を設定しなかった理由です。いろいろな国の子どもたちが「あ! わたしと同じだ」と思ってくれるとうれしいです。

また、先生やクラスメイトに、言葉も文化も習慣も違う国から来て、とまどっている子の気持ちを伝えたいと思いました。

子どもたちは世界各国から来ています。ひとりひとり、日本に来た背景も違います。この平和な日本で、大好きなひとたちといっしょに、心も体も大きく成長してほしいといつも思っています。

––––野呂さんにとっての絵本は、どのようなものですか。

生活に欠かせないものです。

子育ての時も、つねに絵本がそばにありました。子どもたちが、同じ絵本を何度も読んでと言ったり、絵本のおはなしのなかに入って自由に楽しんでいたりするのを見てきたので、日本語を教えはじめたときも、絵本を使ったら子どもたちがよろこぶかなと思いました。

わたしが教えている子どもたちは、日本語の授業を通して、平均して50冊くらい絵本を読みます。

初めて会う日にかちかちに緊張している子に読む絵本、毎日の授業で文法を定着させる絵本、語彙を増やせる絵本、読んであらすじや感想を話し合う絵本など、さまざまな活動にぴったりの一冊があります。

またクラスメイトに気持ちがうまく伝わらなくて泣いていたようなときも、絵本をいっしょに読んでいるうちに心が落ち着くこともあります。同じ本を読んでも目の前の子どもによってとらえ方が違います。それぞれの感想があって、何回読んでも新鮮です。

これからも、子どもたちとわくわくしながらたくさんの絵本に出会いたいと願っています。

––––この絵本に描かれた子どもたちの表情からは、それぞれの気もちが伝わってきます。絵を担当された松成真理子さんに伺います。どんな思いで絵を描きましたか?

あふれた思いが涙になってこぼれたランカの痛み……。それが、そこに居合わせた子どもたちに伝わり、思いを寄せ合い、近づいて、あたりまえみたいに自然にともだちができるシーンがあります。「よかったねランカ」と心の中で言いながら描きました。

環境はそれぞれに違っても「せかいにひとりぼっちのきぶん」を抱えた誰かに、「大丈夫、大丈夫! なんだか楽しくなってきたって思える日がきっと来るからね」と寄り添える絵本になれたらいいなと思っています。

––––ありがとうございました!


野呂きくえ
1960年横浜生まれ。東海大学文学部北欧文学科フィンランド語専攻卒業。フリーでフィンランド観光局にて観光案内やサンタクロースの通訳をする。その後日本語教師として、日本学術振興会研究員に日本語を教え、現在は小学校や中学校で、外国につながりのある子どもたちに個別で日本語を教えている。

松成真理子
1959年大分生まれ。絵本に『まいごのどんぐり』(児童文芸新人賞受賞 童心社)『じいじのさくら山』(白泉社)『たなばたまつり』『きんぎょすくいめいじん』(講談社)『せいちゃん』(ひさかたチャイルド)『みずたまり』(森山京 作)『さくらの谷』(富安陽子 文 ともに偕成社)などがある。

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何気ない当たり前の小さな世界が文字通り波紋となって宇宙の景色とリンクしていく様に心がギュッと熱くなりました。夏の夜に耳をすませながらページをめくりたくなるそんな一冊です。(24歳)

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