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北の森の診療所だより

第23回

5月 春がなくなる日

2018.05.20

冬の長い北国では、それを取り返そうと春がかけ足で過ぎ、すぐあとから夏が追いかけてくる。忙しい。なるべく小さな変化も見逃すものかと五感を総動員する日々。

はるか昔「春がなくなった」のに仰天したことがある。確かに予感させられた日々はあった。なんだか今年は鳥の声があまり聞こえないなあとか、アキアカネが少ないような気がするなどとブツブツ。でもそれは小さな変化だった。ヒトは小さな変化にはすぐなれる。そして蓄積する。あるとき突然大変化となって登場して、私たちを驚かす。

春はもうないのだ、と気づいたことがあった。

1961 年夏、私は北海道を旅した。小さなテントを背負っての旅。卒業後職を得る道東の小さな町。その海岸の草原でテントを張る。朝、そのあまりの騒々しさに飛び起きた。喧噪とはこのことだと知ったのである。鳥の声にたたき起こされたのだった。草原の野鳥の声である。午前3時半であった。次の日も同じ。4日目、とうとうテントをたたんで逃げ出していた。寝不足でぼんやりとし、なんとも始末が悪いのだ。

2年後、職を得たそこが私のフィールドとなった。ほぼ毎日通った。メモをめくると野鳥の声が少ないと感ずる、といった程度のことしか記していない。そうしたある日、かつての面影なんぞ全くない草原になっていることに気づき、愕然としたのである。

1964 年、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の日本語版が出た。そのとき、私は思った。そんな春はやがてくるのではなく、もう目の前にあるのだと。

以来、小さな変化にも敏感になるのだと心に決めたのだった。野鳥のさえずりでたたき起こされるといった幸運に、その後めぐり会ってない。外国を含めても……。

毎朝の散歩が自分の感性の劣化にブレーキをかけてくれるのかなあと、今日も出かけている。出会った自然を少し紹介しよう。

カルシウム補給のため、シカのあばら骨をくわえるエゾリス

トビウオを見つけたカラス

エゾノコリンゴの花

夏毛になりつつあるエゾクロテン

キタキツネの夫婦

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profile

  • 竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

今日の1さつ

2024.11.23

本当に全部がすてきな絵本でした。コロナで疲れて暗い気分になる今、とても優しい気持ちになれて、静かにふるさとの小樽の海を想ったりします。想像するときはどこまでも自由です。本当に本は今とても大切なものだと思います。(60代)

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