『ちいさな ヒッポ』は、これが版画?と思うぐらい精密に動物たちが描かれている作品です。日本での出版は1984年、アメリカでは1969年に出版されていますが、決して古い感じはなく、色合いは新しい印象もあります。とにかくすてきで、見ているだけでうれしくなる絵本です。

『ちいさな ヒッポ』(マーシャ・ブラウン 作/内田莉莎子 訳、偕成社)
この絵本を、保育園の子どもたちが手にとって「読んで!」と持ってくると、幸せな気持ちになります。
かばのおかあさんが、子どもにこんなふうに言葉を教えていく場面があります。
おかあさん「グァオ こんにちは!」
こども「グッ グァオ、おんにちは!」
おかあさん「グァオ、あぶない!」
こども「グッ グァオ、あぶらい!」
「いいかい、ヒッポ、グァオが とても だいじなのよ。」と言うお母さん。

このやりとりはほほえましいのですが、何度も読んでいると、お母さんがくりかえし、命を守る方法を伝えていることに気がつきます。シンプルに命を守ることについて伝えるお母さんの姿がとても良くて、わたしたちおとなは、多くのことを子どもたちに教えたくなりますが、「命」が何より大事だってことを伝えていきたいと改めて思いました。
子どもの質問は、なんでも正解を伝えなくてもいいと思う。
年中クラスの子どもたち数人とこの絵本を読んでいると、「パパはいないの?」とかばの群れが描かれているページをめくりはじめる子がいました。
「これがパパなんじゃない?」
「こっちむいているのが強そうだし」
と、みんなでページをもどって探すのだけれど、「これがパパ」と言い切れるかばはいません。
そういえば、かばの生態についてあまり知らなかったと思い、子どもたちが見ていないところでこっそり調べると、かばは、お母さんだけが1頭で子どもを育てますと書かれていました。
でも、子どもたちに「かばはお母さんだけで子どもを育てるんだって!」と伝えることはせず、あえて、一緒に「どれがパパかなあ」と考える時間を楽しみます。
小さい子がいると、子どもの質問に答えたくて、調べて教えたくなるけれど、子どもたちの質問になんでも正解を伝えなくてもいいと思っています。一緒にさがす時間を楽しむことが大切なときもあるのです。
きょうも、長雨のあとに、園庭で白いきのこが生えているのを2才の子がみつけてきました。さわっても大丈夫かどうかだけ確認し、触っても問題ないとわかったら、あとは子どもたちが興味しんしんで見ている姿を見守ります。担任の先生は「さわったら、あとで手を洗おうね」とだけ声をかけていました。

こんなふうに長年子どもたちと過ごしてきたわたしは、自然にあるものの名前を調べては、たくさん覚えてきました。子どもたちと暮らしていると、おとなもちょっと賢くなれる。おとなにとっても、大事な時間だと思います。

かばの姿がきちんと描かれた作品。
『ちいさな ヒッポ』は版画の手法を使って、かばの姿をきちんと描いているので、すいぎゅうがでてくるページで、年中クラスのあっくんが「これ、すいぎゅうだ! 図鑑にでてた!」と園の本棚に行って、アフリカスイギュウのページを開いていました。

「ほんとだ、すいぎゅうだね。すごく強いんだね」「このつのがすごいからさあ」と話が広がりました。あっくんの話から、絵本に描かれている草木も、作者のマーシャ・ブラウンはきちんと描いていると確信しました。
この絵本では、なんと言っても、お母さんがわにをくわえてほうりなげる場面の迫力がすごいのです。絵本を読んでいたら、思わず友だちの後ろにかくれてしまう子もいました。
かばのお母さんが子どもを見つめる優しいまなざしや、子どもが一生懸命お母さんの言葉を守る場面もすばらしく、子どもを守る愛情がしっかり伝わる作品だと思います。


