引っ越しすると、学校も変わることがありますね。さまざまな事情で転校する子どもたちの中には、外国へ引っ越す子もたくさんいます。今回ご紹介する『ランカ にほんにやってきたおんなのこ』(野呂きくえ 作/松成真理子 絵)の主人公ランカは、南の島から日本の学校に転校してきました。言葉もわからず文字も読めない、緊張と不安のなか、ランカが体験したのは……? 学校に通うすべての子どもたちへ、願いをこめたお話です。
遠い国からやってきて、不安な気持ちで過ごすランカ
ランカは、10歳の女の子。あたたかく自然がゆたかな国から、両親とともに日本へ引っ越し、日本の小学校に入りました。
でも、まわりの子が話す言葉はわからないし、文字も読めません。学校生活の様子も、ランカの国とはちがいます。ランカは、「地球にひとりぼっちの気分」をあじわいます。
ふるさとでしていたように、木の枝にぶらさがって遊びたいな……、そう思っていたとき、ランカは大きな木を見つけました。「のぼりたい。よいしょ。よいしょ。」
ところが木の下に、隣の席のりょうたくんが現れて、何か言いながらランカの足をつかみました。
「なぜ かってに わたしのあしを さわるの?
なぜ わたしのあしを ひっぱるの?
くやしい。
なんで ひっぱるんだろう。
それに こわい かお。」
とまどう気持ちから、ランカは泣き出してしまいました。すると、りょうたくんも泣き出します。どうしてでしょう?
実はりょうたくんは、あることをランカに教えようとしていたのです。それは決して意地悪な気持ちからではありませんでした。ちがう文化で、言葉がわからなかったのは、クラスメイトの子たちも同じ。このできごとをきっかけに、ランカとクラスメイトの子たちの距離がちぢまり、ランカは学校が楽しくなっていくのでした。
野呂きくえさんは日本語教師。日本語を学ぶ子どもたちとの関わりから生まれた絵本
作者の野呂きくえさんは、25年以上の経験をもつ日本語教師です。長年日本で日本語を学ぶ人や子どもが直面する問題を見ていくなかで、野呂さんが至った結論は、「言葉の習得は本当に力になる。けれど、言葉以前のだれかとのつながりは、もっと力になる」ということでした。そのことを伝えたくて生まれたのが、このお話です。
今、日本のあちこちの学校に通う外国の子もランカであり、また、日本の子が外国の学校に通うことになったら、自分がランカの立場になることもあります。異なる文化をもつ国で、聞こえてくる言葉や目に入る文字が読めないと、どんな不安な気持ちになるだろう。そんなふうに不安を感じている子がいたら、どうやって声をかけよう。そんな想像力が芽生える一冊です。