一目みれば心を奪われてしまう、力強いエネルギーに満ちあふれた絵と文章。数多くの絵本を手がけてきた2020年7月に最新作『つかまえた』を刊行しました。
きょうは、そんな田島さんの代表作といえる3冊の絵本をご紹介します。
幼少期を過ごした土佐の妖怪がモチーフ『しばてん』(1971年初版)
むかし土佐に住んでいたとされる、すもう好きの妖怪「しばてん」。みなしごの男の子・たろうは、すもう大会で、あらゆる人を投げ、しばてんの生まれかわりではないかと疑われてしまいました。そして、村の長者の「こんな きみわるい ばけものは、村にゃ おけん。」という言葉に同意した人々によって追いやられ、山奥でひとりで生きるようになります。
月日は流れ、人に会いたくなったたろうが山をおりると、村は日照りによって困窮し、人々は飢えにあえいでいました。そんななか、長者だけが家に米や食べものをたくわえているのを知ったたろうは、長者を投げ飛ばし、人々を飢えから救います。
みんなはふたたびお腹いっぱい食べられるようになり、たろうはまた村に住むようになりました。しかし、騒ぎをききつけた役人がやってきて、長者の米俵をぬすんだのは誰か、と村の人々を問い詰めて……。
ページごとに異なる色使いで、大胆に描かれた絵からは、たろうや村の人々のほとばしる感情があふれます。人間の業について、深く考えさせられる一冊です。
女の子と山のふきのとうの出会いをファンタジックに描く『ふきまんぶく』(1973年初版)
夏の夜、山の上が光っているようにみえたふきちゃん。山を登ってみると、そこにあったのは、たくさんのふきの葉っぱでした。
同じ名前のふきちゃんを「わしらのこどもだな」というふきの葉っぱ。ふきちゃんは、ふきたちと一緒に遊びます。そして翌朝、ふきの葉っぱの下で眠っているところを、お父さんにみつけられるのでした。
秋が来て長い冬になり、冬が終わりかけたころ、ふきちゃんが山を見上げると、あたたかそうに見える場所がありました。夏、ふきの葉っぱたちと遊んだ場所です。がまんしきれなくなったふきちゃんが、ふたたび山を登ると、そこには……。
この絵本の舞台になった、東京の日の出町では、ふきのとうのことを「ふきまんぶく」と呼ぶのだそう(まんぶくはまんじゅうのこと)。ふっくら丸い顔で「ふきまんぶく」と呼ばれているふきちゃんと、本物のふきまんぶくとの、優しい交流が描かれています。
講談社出版文化賞絵本賞を受賞しています。
怯えながら生きていたバッタが大きな一歩を踏み出す『とべバッタ』(初版1988年)
茂みの中で、さまざまな天敵に囲まれ、おびえながら生きていたバッタは、ある日そんな生き方がつくづくいやになり、茂みを飛び出しました。
襲いかかってきたヘビやカマキリ、クモ……天敵たちをけちらし、めちゃめちゃにして跳ぶバッタ。
高い雲をひきやぶったとき、下へ下へと落ちはじめますが、そこで初めて、使ったことのない4枚の羽をはばたかせます。
「おかしな とびかた!」とトンボやチョウに笑われますが、バッタは気にしません。自分の力で飛べるよろこびに満ちあふれ、自分の行きたい方へ、高く高く飛んでいくのでした。
小さなバッタの世界が力強く描かれ、気持ちが晴れやかになる作品です。絵本にっぽん賞や小学館文化賞・絵画賞など、多数の賞を受賞しています。
田島さんの絵本では、一冊ごとに、さまざまなテーマで「生」が表現されています。そのエネルギーは今も健在。2020年7月の最新作『つかまえた』では、忘れられない少年の日の原体験を描いています。代表作から最新作まで、田島さんのあふれるエネルギーに、ぜひふれてみてくださいね。