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絵本の相談室

保育士によるはじめての絵本えらび 第11回

絵本があってよかったなあ

これまで絵本と子育ての相談に答えてくださった安井素子さん。今回の記事では、子どもたちと絵本をいっしょに読んできて、「絵本があってよかったなあ」と思ったエピソードを教えてもらうことにしました。絵本選びのヒントがあるかもしれません……!

 わたしの小学校の卒業アルバムに、将来の夢は「保母さんになること」と書いてある。その夢は実現し、ずっと継続してきたことになる。どうしてそう思ったのか、覚えていないのだけれど、「保母さん」という職業以外は考えたこともなかった。

 そんなわたしが、保育実習生だったとき、「この本、かわいいから子どもたち喜ぶだろうな」と思って、かわいいくまの絵本を1冊もって保育園に行った。

「つまらん」と子どもに言われたことがきっかけに

 忘れもしない、年長すみれ組の子どもたち。ひとりの子が「つまらん」と言って立ち上がったら、次つぎとわたしの前から子どもたちがいなくなってしまい、切なかった思い出が……。その日、わたしは実習が終わるとその足で本屋さんへ行き、子どもたちの喜びそうな本を探した。お金のなかった学生のわたしは、当時250円だったぺーパーバックの本を2冊買った。

 そのとき買った1冊が、さとうわきこさんの『おつかい』という絵本(さとうわきこ 作、福音館書店。現在はハードカバーで刊行されています)。次の日、ドキドキしながら子どもたちに読んだ。ページをめくるごとに表情の変わる子どもたちの顔を今でも覚えている。「あしたも 読んでね」と言われたときは、うれしかったなあ。そこから、わたしは自分が「おもしろい」と思う感性を疑い(?)、子どもたちの反応を気にするようになった。

 子どもたちの反応を見ることが、どんどんおもしろくなり、
「この本は喜ぶかな?」
「この本は〇〇君が好きそうだな」
「この本を読んだら、子どもたちはどんなことを言うのかな?」
と、そのことを楽しみに絵本を手渡しているうちに、気がつくとわたしの家には2,000冊(しっかり数えたことはないが、たぶんそれくらい?)の子どもの本が!

 その後、めでたく保育園に就職し、年長の担任に。いろんな本を子どもたちに読みたいと思うのだけれど、保育園の本棚には読んでみたい本が少ない……。そう思いながらも、日々の生活で精いっぱい。本屋に行くこともなく、1年たってやっとゆとりが持てるというところで、新設の児童センターへ転勤! そこから5年間、絵本のことはあまり考えず、こまやけん玉、卓球と子どもたちと遊びほうけていた。今思うと、このとき、何にもとらわれない「子ども」そのもののおもしろさを知ることができたのかもしれない。

じりじり・・・・・・おめんをつけてちかづいてみようっと。子どもの行動は思いがけないものばかり!

保育者としてもお母さんとしても経験が浅くて、どんな絵本がいいのかわからななかった

 再び保育園に転勤になったときは、ちょうど子育てと重なった。でも、どんな絵本を読もうかと探すのだけれどよくわからない。今のようにインターネットもない時代で、学生の時代に友達に教えてもらって行ったことがあった名古屋にある子どもの本の専門店「メルヘンハウス」へ通うようになった。そこでは、スタッフが一緒に絵本を選んでくれた。

 「ブラジルの子がクラスに入ったのだけれど、喜びそうな絵本ありますか?」「あかちゃんが喜ぶ、人気の本ってどれですか?」など。保育者としてもお母さんとしても経験の浅い私には大事な場所だった。地域にそんな子どもの本の専門店があったら、これを読んでいるみなさんも、ぜひのぞいてみてください。ちょっと遠くても、遠足気分ででかけたらいいかも!

 メルヘンハウスの店主・三輪哲さんは、わたしが子どもたちの話をすると、「子どもっておもしろいなあ」と、うなずきながら聞いてくれた。そのことでわたしは、ますます絵本の世界のおもしろさにどっぷりつかっていくことになったような気がする。

子どもが教えてくれた、絵本のおもしろさ

 保育園で、絵本『どろぼうがっこう』(かこさとし 作・絵、偕成社)を読んだあとにこんなことがあった。その日、電車を見に行こうと散歩にでかけ、駅の構内を抜けるときに、子どもたちがさわぎだした。「しーっ しずかに」と言ってわたしがふりむくと、子どもたちが「どろぼうがっこう」の生徒たちのように「ぬきあし さしあし しのびあし」と歩き出した。

 後日、「こんなことがあって、ちょっと恥ずかしかったんです」と、メルヘンハウスの三輪さんに報告すると、このときもおもしろがってくれて、わたしの本『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)の解説でも、紹介してくれた。子どもたちの思いがけない反応にとまどいながらも、絵本があることで、クラスみんなが共通のイメージをもっているってすごいなあと思ったりした。

 『とべバッタ』(田島征三 作、偕成社)を、年少クラスで読んだときは、「しかし バッタは、なんと いわれようと へいきだった。じぶんの ちからで とべることが、うれしくて うれしくて しかたなかったから」という、子どもたちに伝えたいなあと思う言葉も入っていて、力強く読んだ。


 最後にオスとメスがなかよく向かい合っているページで、「お母さんに会えた!」とふみ君が言った。3歳の子どもにとって、なにかに挑戦したり、がんばったりしたとき、最後に安心できるのはそばにいてくれる家族の存在なのだと思い、担任のわたしはお母さんたちがちょっとうらやましいとさえ思ったなあ。

 こんなこともあった。
 「先生、娘がどうしても、いつも読んでもらってる本がほしいっていうんです。どんな本なのか見せてもらってもいいですか?」と、ある日、お母さんに声をかけられた。「もちろん、持ってかえって一緒に読んでみてください」と伝え、お母さんは持ちかえったのだけれど、次の日、「あの、この本のおもしろさは、わたしにはよくわかりません」と話してくれた。そのとなりで、ちょっとかなしそうな顔をしていた、まあちゃん。
 『もっちゃう もっちゃう もうもっちゃう』(土屋富士夫 作・絵、徳間書店)という、おしっこをがまんしている子どものお話だったから無理もない。でも、その数日後、まあちゃんが、「あのね、あの本ね きのうね 買ってもらった」とうれしそうに、こっそり教えてくれた。
 「じっくり読んでみたら、子どもの頃の自分ならきっと喜んで見ただろうなって思って」とお母さんから報告を受けたとき、わたしはうれしくて涙がでそうだった。そうそう、子どもの頃の自分にもどることができる時間も、子どもたちがくれるんですよね。

子どもたちが選んだもの、自分からやろうとすることから学ぶ

 子どもたちは、自分の選んだ本が何かの役にたつと思って選ぶわけではないので、自分の感性で「おもしろい!」というものに出会ったとき、あきずに何度も同じ本を見る。そんな子どもたちの真剣に絵本を見る姿も好き。

 子どもたちは、自分に合ったおもしろい本を知っていて、くりかえし、くりかえし、ボロボロになるまで読む。

 絵本を読むことにかぎらず、子どもたちが自分からやろうとすることにはきっと意味があるのです。何度転んでも立って歩こうとした、あのときと同じように、子どもたちには、何度失敗してもちゃんとまた歩き出す力がある。その力を信じることができたら、わたしたちは子どもの姿からもっと学ぶことができるのだと思う。

 最後に、これからの時期にぴったりの秋の絵本を1冊。
 『もりのかくれんぼう』(末吉暁子 作、林明子 絵、偕成社)は、林さんのすてきな絵を見ながら、かくれんぼしている動物を探す絵本。

「みつけた!」
「あ、ここにいる!」
「え? どこ? ほんとだ!」
 絵本のなかから、どんどん探しだす子どもたちのスピードについていけないわたし。こんな風に本当に子どもたちに教えてもらわなければならなくなってきましたが、歳を重ねて、ゆっくり流れる時間も楽しみにできるようになってきたこの頃です。

★ここで紹介した子どもの本専門店「メルヘンハウス」は2018年3月に惜しまれながら閉店しました。


安井素子(保育士)

愛知県に生まれる。1980年より、公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年近く。1997年から、4年間、椎名桃子のペンネームで、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、園での子どもたちとの日々を、エッセイにつづる。書籍に、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスでの連載をまとめた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)がある。現在、保育雑誌「ピコロ」(学研)で「きょうはどの本よもうかな」、生協・パルシステムのウェブサイトで「保育士さんの絵本ノート」を連載中。保育・幼児教育をめぐる情報を共有するサイト「保育Lab」では、「絵本大好き!」コーナー(https://sites.google.com/site/hoikulab/home/thinkandenjoy/picturebooks)を担当している。保育園長・児童センター館長として、子どもと一緒に遊びながら、お母さんやお父さんの子育て相談も受けてきた。現在は執筆を中心に活動中。

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