1年でもっとも夜の長い日、冬至。韓国では、この日にあずきがゆを炊く習慣があるそうです。新年をむかえる前に良い運気をまねきいれるため、戸口にまくなどして、悪いものの侵入を防いだのだとか。『あずきがゆばあさんととら』(ペク・ヒナ 絵/パク・ユンギュ 文/かみやにじ 訳)はそんな韓国の風習から生まれた昔話の世界を、いま韓国でもっとも注目されている作家、ペク・ヒナがユニークに表現した絵本です。
あずきがゆばあさんと、とらの約束
昔、深い山奥にあずきがゆばあさんが住んでいました。ばあさんが煮る「あずきがゆ」はとってもおいしく、ばあさんは、「あずきがゆばあさん」と呼ばれていました。
ある日、あずきがゆばあさんが山のあずきの畑で草取りをしていると、どこからか「とてつもなく でっかい とら」がやってきて、ばあさんを食べようとするではありませんか。あわてたばあさんは「ゆきの ふる ふゆ、おまえも たべるものが ないとき おいしい あずきがゆを たらふく たべてから わたしを がぶっと くったらいい」といいます。
それをきいたとらは、山へ消えていきました。
やがて、とらと約束をした、冬至になりました。ばあさんは、とうとうとらに食べられる日がやってきたと、あずきがゆを煮ながら、おいおいと泣いていました。そこへ、栗が一つぶやってきます。ばあさんが泣く理由をきいた栗は、こういいました
「おいしい あずきがゆを おいらに 一ぱい おくれ。そしたら くわれんように してあげる」。
続いて、すっぽん、うんち(!)、せんまいどおし、いしうすなどいろんなものが次から次へとやってきて……。
韓国のあずきがゆはどんな味?
おばあさんのピンチが、2度、「あずきがゆ」で救われることになる昔話。韓国では、赤い色は邪気をはらう魔よけの色とされてきたことから、赤い豆であるあずきがゆにも、そのような力があると信じられてきたのだそうです。
実は韓国のあずきがゆは、まったく甘くないのだとか。砂糖などをいれずに、あずきだけを煮たものに、少量の米粉または米を加えてとろみをつけるのだそう(白玉だんごを浮かべることも)。余計なものをいっさいいれずに煮るのに、評判を呼ぶほどにおいしいという「あずきがゆばあさん」のつくる、あずきがゆ。いったいどんな味がするのでしょうね!
ちなみに、冬至の日、日本では、かぼちゃを食べたり、ゆず風呂に入ったりする習慣がありますが、これは身体をあたためるのと同時に、やはり同じように厄ばらい、無病息災の願掛いもこめられています。おとなりの国で、同じ意味合いをもった異なる習慣があるのはおもしろいですね。
韓国でもっとも注目される作家ペク・ヒナ
ペク・ヒナは、いま韓国で注目されている絵本作家。人形制作、セット、ライティング、撮影をひとりですべてこなして、絵本を制作しています。
日本でもこれまでに『あめだま』『天女銭湯』(いずれもブロンズ新社)などが翻訳され、その唯一無二の表現が評判をよびました。2020年にはアストリッド・リンドグレーン賞を受賞しています。
本作でも、平面と立体をみごとに組み合わせたオリジナルな世界をお楽しみいただけます。紙で制作したゆたかな表情の「あずきがゆばあさん」をはじめ、ばあさんの住む小屋のようすや、雪の表現など、すみずみまであじわいたい1冊。ばあさんのつくるおいしそうなかゆが、読者の心もお腹もぽっぽと温めてくれることでしょう!